あけましておめでとうございます。昨年は沢山の皆様に閲覧いただき、大学院の進学相談や労働環境についてのご質問、個人事業としてやっている勉強会の資料作成代行など、ブログ記事以外で皆様と関わる機会も増えた充実した年だったと思います。
今年も昨年同様、本職の教員と博士課程の合間に、少しでもお役に立てるよう頑張りたいと思います。
さて、今回はタイトルにある通り、看護職の労働に関する法律や規則などについてまとめたいと思います(自分の備忘録も兼ねて)。
こういったことって、誰も教えてくれませんよね?職場の風習や習慣でなんとなく行われていることも、実は法律などには明記されていなかったりします。何が正しくて何が間違っているのか、少しでも判断材料になればと思います。
(※記事内容に誤りがあったので訂正しました。訂正箇所は黄色でハイライトしています。2019/03/06)
残業について
残業時間の話をする際、必ず明確にしておかなければならないのが「実労働時間」。
実労働時間とは、「実際に業務を行っている時間」ではなく、「組織の管理下にある時間」のことです。
具体的には、作業時間(=実際にケアをしたり書類を作ったりしている時間)、他人の作業が終わっているのを待っている時間(=もし他の方の業務が終わらない場合、手伝ったりする可能性がある時間)、準備・整理の時間(=着替えや受け持ち患者のその日の予定を確認する時間)などが該当します。
また、強制参加の勉強会・研修や、何かが起きれば呼ばれて業務を遂行する必要のある仮眠時間なども労働時間に含まれます。
(逆に言えば、夜勤の休憩中など賃金が発生していない休憩・仮眠中は呼ばれても業務を遂行する義務はありません。ただし、医療現場では患者の急変などで休憩中に業務をする必要のある場面はあると思います。そうした場合は、使用者は超過勤務手当を支払う義務があります)
そしてこの労働時間は、1日8時間以内、週40時間以内にしなくてはいけないということが労働基準法に明記されています。
「え、あたりまえのように残業してますけど!?法律違反じゃないか!」という声が聞こえてきそうです。
そこで登場するのが「36(サブロク)協定」というものです。言葉は聞いたことがあるのではないでしょうか。
36協定では、使用者と労働者(=事業場の過半数の労働者で組織している労働組合)との間で、時間外労働や休日労働等に関する内容を取り決めています(労働基準法第36条に明記されているので36協定といわれています)。
使用者と労働組合との間で同意があれば、いかなる残業や休日労働も認められるのかというとそうではありません。
締結された36協定は、厚労省告示第154号に定める「労働時間の延長の限度」に準拠する必要があることが労基法36条第3項で規定されています。
具体的な労働時間の延長の限度は以下となっています。
ちなみに、少し細かいですが、法定外労働時間とは1日8時間・週40時間であり、使用者はこの範囲内で「所定労働時間」を定めることができます。
例えば所定労働時間が9時~17時でうち休憩時間が1時間だった場合、実働は7時間なので、18時まで残業した場合は「法定内残業時間」とみなされ36協定の規定外となります。
なお、36協定では特別条項を設けることもでき、限度時間を超える時間外労働を臨時で可能にしています。
最後になりますが、36協定を締結していない場合、労働基準法の記載事項がそのまま適応されるので、時間外労働を労働者に課すことはできません。
夜勤について
さて、時間外労働とともに看護職の業務で最重要課題ともいえる「夜勤」。
「夜勤が多すぎる」「夜勤できる能力じゃないのに夜勤に就かせている」など、夜勤にまつわる紛争の火種は少なくありません。
では、看護師の夜勤数はいったい何によって規定されているのでしょうか?
ずばり「診療報酬」です。現在の診療報酬では、入院基本料の一部として「夜間勤務等看護加算」が設けられています。これは、「看護職員の月平均夜勤時間72時間以下であること」が規定されており、これを満たさないと入院基本料から減額措置を受けることになります。
(※2014年度診療報酬改定により、「夜間勤務等看護加算」は廃止され、「月平均夜勤時間超過減算」が設けられていました。概ね内容自体は変化ありませんが、減算報酬が20%から15%となり、3ヶ月間の減算を受けるそうです。)
看護職員の月平均夜勤時間数は、夜勤従事者の延夜勤時間数÷夜勤従事者数という単純な式で算出されます。
つまり、分母である「夜勤従事者数」を増やせば、月平均夜勤時間数が減っていくので、病院としては「夜勤従事者数」を増やしたいという通念があります。ちなみに「夜勤従事者数」とは、月16時間以上を超えて夜勤をする従事者のことです。
(※「月平均夜勤時間超過減算」の基準によると、7対1もしくは10対1以外の入院基本料を算定している場合は、月8時間以上を超えて夜勤をする従事者は「夜勤従事者数」として算入することができるようです。)
要するに、月2回は夜勤をしてくれれば、上記の式の分母が稼げるので、病院としては減額措置のリスクを回避できるのです。
安全管理上、新人や不慣れな中途採用者などは、慣れるまで日勤で過ごすのが望ましいのかもしれませんが、それでは「分母」が稼げないので、経営側としては1日でも早く夜勤月16時間を達成して欲しいのです。(この夜勤従事者数のカラクリは時短勤務者など不規則なシフトで働く方々の問題とも絡んできます。)
そして最大の問題点。「夜勤制限の問題」です。
実は日本の法律・規則の中では、上記の「夜間勤務等看護加算」以外に看護職員の夜勤過重労働を抑止する決まりごとは事実上存在しません。極端な話、病院側が診療報酬の減額措置を容認した場合、ひとりあたりの夜間過重労働を抑止するには、管理者の采配に委ねられているのが現状です。
こうした背景から、(家庭状況や能力などの兼ね合いで)夜勤をバリバリこなせそうにない人は月16時間だけ夜勤をしてもらい、働ける人が夜勤の負担を一手に引き受けている構図になっているのではないでしょうか。
ちなみに名誉のため(?)にきちんとお伝えしますが、我らが日本看護協会は、この夜勤労働を抑止する規則がない現状について、国に対し強い抗議を表明しています(→詳細はこちらのリンクから)。本来であれば、これにアカデミアのエビデンスがついてくれば最良なんだけどなあ…と常々思っています(やはり臨床での調査の壁と研究費の課題がこちらにはありそうです)。
産育休に関すること
9割が女性が占める看護師。この話題も切り離せません。
産育休が規定されている法律や休業中の給与体系についてはこちらの記事を参照してください。
今回は、休業後、雇用条件を変更したい(正規雇用→パート)場合についてまとめていきます。
こんな場面、わりとありませんか?
看護師「師長、育休いただいて復帰しましたけど、やっぱり育児との両立が大変なので、パートにしてもらいたいです」
師長「ダメよ!常勤で戻ってくるっていうから育休あげて、その分みんな頑張ったんじゃない!」
看護師「でも本当に大変なんです。でしたら辞めるより他ありません…」
師長「辞める!?あなたのプライベートな理由で子供作って、産休育休もらって休んだ挙句辞めるっていうの!? △$%&?#…!!!」
この場合、雇用条件の変更は可能なのでしょうか。
結論から言うと、可能です。基本的には使用者と労働者の間で合意が得られれば、雇用条件の変更は可能なのです。産休や育休に関する法律等をみても、その後の雇用形態を条件とする記載は全くありません。むしろ、育児介護休業法第10条では、育児休業の申請や取得を理由に、その労働者に対して解雇やその他の不利益な取扱いを禁止しています。また、立場は逆ですが、男女雇用機会均等法第9条3項では、使用者は育児を理由にパートへの変更や退職を強要することはできないことも定められています。
さらに、使用者には基本的に「配置に関する配慮義務(育児介護休業法第21条)」があるため、できる限り家庭状況等を考慮した対応するよう努めることが明記されています。
ただし、何が何でも必ず労働者の希望を尊重しなければならないわけではなく、様々な他の事柄とのバランスを考えて対処する必要があります。
簡単にいうと、労働者がパートタイマーとなった時に生じる使用者側の不利益(臨時の追加雇用者の準備やその他の労働者への負担など)もあるはずなので、使用者(管理者)はこうした面から真摯にその看護師と話し合うことが大切です。
いずれにしても、法的には基本的に労働者の希望を尊重することが重要であることが示されています。上記の看護師長の対応は、明らかに法律違反スレスレの表現ですね。
病気休暇に関すること
常に緊張状態で業務をこなし、夜勤のある不規則なシフト勤務。看護師の皆さんも体調を崩してしまうこともあるかもしれません。そんな時に利用するかもしれない「病気休暇」についても押さえておきましょう。
いきなりですが、実は労働基準法には「病気休暇」や「傷病休暇」という表現の休暇に関する記載はありません(公務員や公務員に準ずる独法では各公務員法などで記載されています)。
しかしこのご時世、多くの病院や施設で「病気休暇」の制度があるのではないでしょうか。
公務員以外の施設において、病気休暇を定めるか否か、その期間、賃金の有無とその額などは基本的に使用者が定めることができるのです。つまり病院・施設側の自由というわけです。制度がない施設は、経営陣の方針なのかもしれません。
ちなみに、病気休暇を規則として定める場合、あらかじめ就業規則に手続方法等を記載し、労働者に周知させる必要があります。
いかがだったでしょうか。
こうした労働にまつわる法律や決まりごとをみてみると、国としてそもそもしくみが無いのか、自分の施設にだけないのか、上司が言っていることに根拠があるのか無いのかなどがわかってくると思います。
安全に、健康的に働くために少しでもお役に立てたら幸いです。