看護師とバーンアウト 〜バーンアウトとは?〜

こんにちは。東京は空が重く、いよいよ梅雨本番!って空模様ですが、あんまり雨は降っていません。そろそろ紫陽花が終わる頃でしょうか… 去年鎌倉の長谷寺に紫陽花を見に行きましたがなんと3時間待ち!だったので泣く泣く帰宅しました((;゚Д゚))) 今年はちょっと忙しくて見に行けてませんが、道端の紫陽花を見ながら季節を感じています。 さて、今回は僕の研究テーマにも少し関わりのある、バーンアウト(燃え尽き症候群)について、自分のメモも兼ねて基本的なことをまとめたのでご紹介したいと思います。

バーンアウト(燃え尽き症候群)の概観

バーンアウトはヒューマンサービス従事者において特異的に見られるとされる心理的ストレス反応の一種で、あたかも「燃え尽きたように」意欲を失ってしまう状態のことである。 とりわけ、病める人々に日常的に接し、その心理的ケアに加え高い医療技術の専門性も要求される看護師の間でもみられ、数多くの研究が行われている。 限りある個人や組織の資源と、対象(クライエント)からの需要のアンバランスによって生じると考えられている。 論文検索ツールPubMedで”burnout + nurse”と検索すると、2017年6月27日現在3716本の論文がヒットする。 ご覧の通り、2000年付近から急激に増加し始めていることがわかる。これは、世界的な高齢化等社会の変化に伴う医療需要の増加と看護師の離職が世界的なテーマとなり、バーンアウトと離職といったテーマでの研究が増加したためと考えられる。 その根拠として、バーンアウトと看護師の離職意図を論じた論文も同様に数多く発表されている(離職意図と離職行動については諸説あり)。

バーンアウトの症状(下位概念)

バーンアウトは3つの下位概念で構成されている。

情緒的消耗感

情緒的消耗感とは、仕事を通じて、情緒的に力を出し尽くし、消耗してしまった状態のことである(極端に言えばあしたのジョー2最終回の矢吹丈のような状態と思っていただけると思い描きやすいかも)。

「情緒的」とついているのは、消耗感の原因として情緒的な資源の枯渇であると考えられており、バーンアウト3つの下位概念のうち、情緒的消耗感がバーンアウトの主症状であると考えられている。

サービスの対象と信頼関係を築くため、自らが持っている多くの情緒的資源(共感や同調など)を消費しながら仕事を行う看護師において、そういったエネルギーの消費が慢性的に続き効力感を得られないままになってしまうとバーンアウトへ移行する。

脱人格化

MBIマニュアルによると、対象に対する無情で非人間的な対応と定義されている。

本来、看護師を含むヒューマンサービス全般では、対象者それぞれの特徴や背景を考慮しながら対応することがその業務の主たる特徴である。しかし、その関わり合いに疲弊しバーンアウト状態にある者は、マニュアル通りにしか動かない相手を名前で呼ばない疾患など一般的な特徴でしか相手を捉えない、などといった没個性的な対応をとる。これが「脱人格化」である(冷徹な看護師、融通の利かない看護師、患者が話しかけられない雰囲気の看護師、はときどきいますよね…)。

これは、今以上の情緒的消耗を避けるためのある種無意識の防衛反応とも位置付けられているが、こういった反応が見られている場合すでにバーンアウト状態にあるとみなされる。

個人的達成感の低下

MBIマニュアルによると、ヒューマンサービスの職務に関わる有能感、達成感と定義されている。

他の2つの下位概念とは少し異なり、これは自分の仕事が役に立っているという実感や仕事によって自己実現がなされているかというものである。自己効力感や自己実現と類似の概念で、バーンアウト状態にある者は、自分の仕事が役立っている気がしない、仕事に対し達成感が得られないといった自己否定に結びつく。

バーンアウトの原因

個人要因

  • 性格特性を測定するBig Fiveによる、神経症傾向とバーンアウトに高い相関がみられる。神経症傾向の人はストレス耐性が低いとされ、とくに情緒的消耗感は従来のストレス反応と近似の概念を測定しているため強い関係が見られたと考えられている。
  • 年齢が高く、経験年数が高い人はバーンアウト得点が低いことが多くの研究で実証されている。これは、年齢や職務経験が増えるにつれ、仕事の結果予測ができたり、自分にとって適切な対処行動を経験から学んだりするためであると考えられている。
  • ストレス理論において近年非常に重要な概念であると言われている首尾一貫感覚(SOC)も、バーンアウトと強い関係を示す多くの研究がなされている。

環境要因

  • 過重労働は、職務ストレスの原因としてもっとも数多く取り上げられてきた要因である。勤務時間や作業量だけでなく、質的な負担についても同様である。
  • 求められる役割の明確さもバーンアウトと関連しており、役割が曖昧であれば曖昧であるほどバーンアウトのリスクは増大する
  • 加えて、職務を遂行するにあたって決定権が付与されていること、すなわち自律性は、バーンアウトのリスクを軽減する

バーンアウトへの対処

バーンアウトを避けるためには、「入り込まないこと」すなわち「突き放した関心」が必要である。ヒューマンサービス従事者(とりわけ医療者)として、相手への暖かい思いやりや共感などの姿勢は大切であるが、あくまで職務として、という冷静な視点が必要である。 また、問題を正しく認識し、ストレス理論で論じられているコーピング方略(感情型・問題解決型コーピング)も対処方法として密接に関係している。

バーンアウトからの回復

バーンアウトからの回復には、このようなプロセスをとると考えられている。つまり、バーンアウトは決して回復できない心理状態ではないことがわかる。このようなプロセスを考慮しつつ、そういった人を支援してあげることで、バーンアウトから回復することができる。 また、この回復過程を経ることで、自らのコーピング能力やレジリエンス(精神的回復力)を向上させるため、バーンアウト状態に陥ったとしても決して悲観しすぎることはないのである。


いかがでしたでしょうか?バーンアウトに関する論文は多く、心理社会的概念の中では堅牢な概念であるといえます。看護師と密接な関係にある概念でもありますので、覚えておいて損はないでしょう(°∇° )

引用・参考文献(一部)

久保真人 (2007). バーンアウト(燃え尽き症候群)ーヒューマンサービス職のストレス. 日本労働研究雑誌 558, p54-64

久保真人 (2004). バーンアウトの心理学 ー燃え尽き症候群とは. サイエンス社

Maslach. C. et al,. (1996) The Maslach Burnout Inventory(3rd eds). Palo Alto. C: Consulting psychologists Press

など


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