今回は久しぶりに小児の発達理論について記事を書いていきます。
前回まで、フロイト、エリクソン、ピアジェの理論、そしてヴィゴツキーに代表される社会文化的認知理論、情報処理理論について概観してきました。社会文化的認知理論や情報処理理論は、看護分野では比較的マイナーな理論でしたね。今回は、人間の行動に焦点を当てた、行動的社会的認知理論について解説したいと思います。
行動的社会的認知理論の概要
この理論のもとになる考え方である行動主義は、直接観察したり測定できるものだけを科学的に学習できると考える立場です。行動という習慣の中で、発達というものは、環境での経験を通じて学ぶことができる観察可能な行動である、という考え方に立脚しています。
また、フロイトやエリクソン、ピアジェの理論のように、決まったステージで発達が起きるのではなく、外部からの刺激や社会との関係による行動によって発達が起こる、と考えています。外部からの刺激とそれに伴う行動(反応や経験)を強調しており、後天的な要素によってヒトは発達していく、という立場をとっています。
今回は、行動主義の2つのバージョンである、スキナーのオペラント条件づけ、バンデューラの社会認知理論について紹介したいと思います。
スキナーのオペラント条件づけ
1つの行動の結果は、行動の発生の見込みの中で変化を生み出す、と考えています。少し分かりづらいですが、有名な「パブロフの犬」と比較してみましょう。「パブロフの犬」では、エサを見せると唾液が分泌される、といった反応を条件反射と呼びますが、この反応は心理学や発達学の分野では「古典的条件付け」と呼ばれます。
犬はドッグフードを見ると、これまでそれを食べてきた経験から、美味しいものだとわかっているので、自然と唾液が分泌される、という反応です。
基本的に「オペラント条件づけ」は似たような反応ですが、オペラント条件づけでは人間としての経験から導かれる主体的な行動がポイントとなります。
子どもがある行動をしたとき、親が賞賛の感情を表出すると、子どもはその経験を学習し、よりその賞賛を得ようとさらにその行動をしようとします。逆も然りで、親が懲罰的な態度を示すと、子どもはその経験を学習し、その行動をしないように振舞います。これが「オペラント条件づけ」で、重要なのは学習と主体的な行動です。
古典的条件付けとオペラント条件づけの大きな違いはこの学習と主体的な行動ですが、見分けるポイントはその経験学習が受動的であるか(何もしなくても経験を学習できるか)、能動的であるか(本人が行動することによって学習がすすむか)という点です。
スキナーの見地では、報酬や罰ような「条件」は発達に影響を与える、としています。また、発達のカギとなるものは行動であり、思考や感覚ではないとし、これまでの発達理論と一線を画しています。
発達は、そうした報酬や罰といった影響を与える条件によってもたらされる行動変化のパターンから構成されるものだと定義づけています。
バンデューラの社会認知理論
スキナーは行動分析の観点から発達を考えましたが、社会認知理論を支持する人たちは、行動の重要性を支持しながらも、認知面の重要性も同時に考えようとしました。
社会認知理論は、行動・環境・認知が発達において重要なカギである、という立場に立っています。バンデューラはその社会認知理論のパイオニアです。
社会認知理論では、認知のプロセスとして行動と環境との重要なつながりを持つことが重要である、と主張しています。
模倣やモデリングと呼ばれる大量の観察学習により、自分の行動に伴う経験学習だけではなく、他者の行動の観察を通して出来事を学習する、と考えています。
例えば、ある少年の父親がいつも他人に対し攻撃的に怒鳴っているのを見ていたら、その少年も友人に対し攻撃的な態度をとるかもしれない、というものです。
このように社会認知理論では、人々は他者の行動の観察を通して、行動や思考、感覚の幅広さを獲得し、こういった観察が人生スパンの八田うの重要な一部を形作る、と考えています。人々は認知的に他者の行動を表現し、自分自身をこの行動に適合させる、という見方もあります。
最近では、この基本的な理論から発展し、行動・個人/認知・環境がそれぞれ相互作用して発達を形成する、という考え方を支持している学者もいるようです。
まとめとして、行動的社会的認知理論は、観察によって導き出された科学的研究結果と発達における行動の重要性が強調されています。一方で、特にスキナーの見地では認知の強調が乏しく発達における長期的な変化への関心が不十分である、という批判もあります。