看護管理学の基礎 〜リーダーシップ理論の移り変わり〜

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今回は看護管理領域の最大の関心事、リーダーシップ理論について解説しようと思います。

リーダーシップに関する研究の多くは、主に企業を対象に研究が行われる経営学分野で行われてきました。看護学分野では、経営学分野で開発されたリーダーシップ理論を踏襲し、看護学や看護現場に適応するできるよう研究が行われています。
「リーダーシップ」。これそのものでは非常に大きい概念で、「一体具体的にはどんな特徴や行動のこと?」と思われるでしょう。
今回は、経営学分野で行われてきたリーダーシップ研究を概観してみようと思います。看護学の研究でも大変応用されている理論ですので、参考にしていただければと思います。



リーダーシップ理論の大きな流れ

1900年代からリーダシップについて研究されはじめ、大きく4つの理論体系が提唱されてきました。

①特性理論(1900年代〜)

②行動理論(1940年代〜1960年代)

③条件適合型理論(1960年代〜)

④コンセプト理論(1970年代〜)

それぞれの理論は既出の理論の限界を克服する形で発展してきました。具体的にそれぞれの理論をみてみましょう。

特性理論

特性理論とは、リーダーの性格や個性などの生まれ持った特性に着目した理論です。リーダーになる人は、そうした素質がもともと備わっている、という考え方から研究が発展しました。

良いリーダーと認められる人の特性を特定しようと研究が進められましたが、優れたリーダーと評価される人の特性(素質)は一様ではなく、研究が行き詰ってしまいました

しかし、こうした限界がみえただけでなく、リーダーシップは生まれながらの特性だけで決まるものではないという結論が導かれ、次なる研究の発展へと貢献しました。

行動理論

特性理論では、リーダーがとる「行動」に着目した理論です。上で説明したとおり特性理論では、もともと良いリーダーが持つ素質に着目した理論ですが、行動理論ではそうした素質ではなく、良いリーダーとなるための行動はどういったものか、ということに着目した理論です。

行動理論研究では、さまざまなリーダーの行動が分析され、生産性やタスクを重視する生産志向の行動と、人間関係を重視する従業員志向の行動との2つから構成されることが研究によって明らかになりました。

代表的な理論として、日本の三隅二不二(みすみじふじ)博士が提唱したPM理論があります。リーダーシップ行動は、課題達成行動Performance対人関係行動Maintenanceの2つに分けられる、と提唱しました。

こういった理論の開発により、リーダー自身が内省したりあるいは部下が上司を評価し、リーダーがどういった行動であるかを評価できるようになり、後天的なリーダーシップに関しての知見が広がりました。

条件適合型理論

行動理論がリーダーの行動のみに着目したのに対し、周囲の環境(ビジネス環境・タスク・メンバーなど)によって行動を変化させるべき、という考え方です。確かに、仕事をしている中では、「ある場面ではプロジェクトの完遂を優先させるべき」ときもあるかもしれませんし、「あるほかの場面ではメンバーシップを優先させるべき」ときもあるでしょう。

この条件適合型理論では、行動理論にはなかった環境を加味し、リーダーの取るべき行動を変えていくことが効果的であるという理論です。

代表的な理論として、ハウス(R. House)が提唱したパス・ゴール理論があります。

リーダーシップの本質は「メンバーが目標(ゴール)を達成するためには、リーダーはどのような道筋(パス)を通れば良いのかを示すことである」という考えに基づいています。

コンセプト理論

条件適合型理論を前提とし、さまざまな状況に応じて具体的なリーダーシップのとり方として落とし込んだのがコンセプト理論です。

現在提唱されているコンセプト理論として、以下の5つが代表的なものです。

1.カリスマ型リーダーシップ

2.変革型リーダーシップ

3.EQ型リーダーシップ

4.ファシリテーター型リーダーシップ

5.サーバント型リーダーシップ

1.カリスマ型リーダーシップ

カリスマ型リーダーシップは、

①ビジョンを示す ②リスクをとる ③環境を現実的に評価する ④メンバーを理解しニーズや感情に対応する ⑤並外れた行動をとる 

などの特徴を持ちます。カリスマ型リーダーシップがうまく機能すると、大きく事業発展する、メンバーの満足度も高くなるなどのメリットがありますが、逆にメンバーがリーダーに依存しすぎて自主性を失ったり、次世代のリーダー・後継者が育ちにくくなったりするなどのデメリットがあります。

2.変革型リーダーシップ

変革型リーダーシップは、

①組織内の危機感を醸成する ②ビジョンを構築する ③変革チームを中心に、メンバーの自発的な動きを促す ④早い段階で小さな成功をもたらす

などの特徴を持ちます。

近年注目されているリーダーシップ理論のひとつであり、管理能力の向上に比べ変革能力の乏しいリーダーが多いことも指摘されています。

3.EQ型リーダーシップ

EQ型リーダーシップは、

①自己の感情の理解 ②自己の感情のコントロール ③他者の感情の理解 ④他者の感情への働きかけコントロール

といった特徴を持ちます。

組織内の人間関係やモチベーションなどが重要な職場ではこのEQ型リーダーシップが効果的であるといわれています。

4.ファシリテーター型リーダーシップ

ファシリテーター型リーダーシップでは、

リーダーはいわゆる地位や権威によるポジションパワーはあまり使わず、上下関係のない中立のファシリテーター的なリーダーシップ

をとります。リーダーは質問や傾聴などにより、メンバーの意見を引き出し、極力メンバー主導で意見、結論をまとめ、メンバーに主体性を持って行動させるように促すものです。

5.サーバント型リーダーシップ

サーバント型リーダーシップは、

リーダーはあたかもサーバント(召し使い)のようにふるまいながら、しかしうまくチームをリードするスタイル

です。

ただし注意点として、リーダーはサーバント(召し使い)そのものではないため、ミッションやビジョン、最終の意思決定、責任はリーダーにあるという点です。その上で、メンバーをうまくサポートすることで組織を運営します。ただ単にメンバーの支援やサポートに徹するのは適切なサーバント型リーダーシップではないといえるでしょう。



看護学の研究では、これらの理論をそのまま看護の現場に適応したり、看護の現場特有の要素を加えるて応用したりする試みがされています。

研究論文をザッと概観すると、看護学研究では変革型リーダーシップが好まれては使用されている印象です。しかし、リーダーシップを測定・評価する多くの尺度は有料で決して安くはないということから、研究費が少ない日本の看護現場を対象にした研究は海外と比べて少ないのが現状です。

*参考文献*

・安部哲也.リーダーシップ理論の流れと リーダーシップの実践的開発方法.経営センサー 2016. 6


 

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