医療制度の大きなひとつのターニングポイントであった今年度の診療報酬改定を終えても、医療界にはまだまだ激動の波が押し寄せてきそうです。
そんな中、昨今医療界を賑わせている話題のひとるである「タスクシェアリング/タスクシフティング」。
厚労省の資料を中心に、僕なりにこの「タスクシェアリング/タスクシフティング」について勉強して感じたこと、思ったことを書いてみようと思います。
「タスクシェアリング/タスクシフティング」とは何か?
タスクシェアリングとは、ある業務に関して、他者あるいは他職種と共同で行うことです。
タスクシフティングとは、ある業務を、他者あるいは他職種(主に他職種)に業務そのものを移管・移譲することです。現在厚労省を中心に議論されている「タスクシフティング」は、医行為の一部を他の職種へ移譲することをさします。これは、WHOが医療人材不足を部分的に解決する手段として提唱したもので、相対的な医師不足・看護師の業務拡大・チーム医療の推進などから後押しをうけて出てきた考え方です。
厚労省の資料によると、これまでのチーム医療を発展させる形で推進させる、としています。
「タスクシェアリング/タスクシフティング」は看護師にとってプラスかマイナスか
看護界の動向を見ていると、現状やや推進派が多い印象です。
色々な議論を巻き起こした特定行為に係る看護師の研修制度の議論の流れから、タスクシフティングは看護師の業務拡大の大きな追い風になると考えている方々は多いようです。厚労省の資料の中では、実例として、胸腔穿刺や中心静脈カテーテルを挿入している看護師がいることが記載されていました。
慎重派の意見としては、医師だけではなく看護師も業務過多で激務であるのに関わらず、医師中心のタスクシフティングは、看護師をはじめとする他職種の業務を増やすだけで、抜本的な改革には様々な職種を含めた議論が必要、というもの。
さて、このタスクシェアリングやタスクシフティングが、看護界にとってプラスかマイナスか、ということだが、現状のままであるならば僕はマイナスの方が大きいように感じる。だらだら書いても分かりづらいと思うので、以下に意見をまとめます:
・慎重派の意見と同様、そもそも医療界全体が慢性的な激務に見舞われているので、多くの職種を含めた議論が必要
・そもそも、単なる「移譲」では、全体の業務量は変わらないので、まずはシステムや業務改善をして業務を整理したうえで、それぞれの業務を遂行するにはどの職種が適切なのかを考えるべき
・仮に一部の診療行為ができる看護師が誕生したとして、その看護師はどの組織の管理下に置かれるのかが曖昧。それが診療行為なのであれば医師の管理下に、看護行為なのであれば看護の管理下に置かれるだろうけど、その人が行う「医療行為」という業務の中で、どこまでが診療行為でどこからが看護行為なのかが曖昧なので、責任の所在がはっきりしない
・これまで書いたことに対し、一部の看護行為を他のコメディカルとシェア、シフトすることで解決できる、という意見がある。ただ、基本的に現在の法律では、ほとんどのコメディカルは看護業務の一部を担ってるという入れ子状態の存在なので、そもそも議論の必要なく法律上は一部の業務を行えるはず
・看護行為の一部を介護職に移譲すれば良いのでは、という意見もあるが、かつて「口鼻腔吸引」の実施を介護職でも可能とした(いわゆるタスクシェアリング/タスクシフティング)が、浸透したとはいえず、介護職への移譲は慎重に議論するべき
というのが僕の意見です(結局長かった)。
今のところ、議論を概観していると、医師から誰かに業務負荷が映るだけに思えるし、新しい専門職を設立するにしても、それが日本全体で運用可能なものになるかがあまりに先が見えなさすぎるので、また「特定看護師」のときのように空中分解するのでは、という懸念があります。
ナワバリ争いはやめて話し合うこと、他職種を理解すること
まとめになりますが、キレイゴトに聞こえるかもしれません。
ただ、ある業務が誰かに取って代わられると収益がどうとか、移譲されると困るとか、自分たちの職の枠組みの中で議論するのをやめて、みんな一様「医療職」として、日本の医療、そして患者のためになにがベストかを話し合う時代にきているような気がします。
医療職にとっても、国民にとってもハッピーな未来になることを願います。