こんにちは。今回は、働き方改革にみる看護師の労働環境について、僕の一意見を書いていこうと思います。
実は「看護研究」をテーマにした記事を準備していたのですが、少し先にこちらの記事を公開することにします。ダラダラ僕の意見を書いていきますので、興味のない方は流してください。
何かと物議を醸している「働き方改革」。タスクシェアリングについては以前記事を書いたので、今回は「労働環境」に焦点を当てて書いていこうと思います。(【コラム】タスクシェアリング/タスクシフティングは激務を改善しうるのか?)
制度と労働環境について
僕は看護師の労働環境をテーマに研究をしているしがない研究者ですが、実はあまり制度や施策にはあまり関心がありません。もちろん労働環境を扱う身ですので、基本的な知識はあるつもりです。その上で、労働環境を良くしたいと思ったとき、現行の制度や施策を大きく変える必要はないのでは、というのが僕の考えです。
理由はいくつかありますが、ひとつは日本の医療制度における診療報酬制度にあります。詳細に説明すると大学の講義並みになってしまうので割愛しますが、例えば労働環境を診療報酬の施設基準の枠組みに入れたとして、労働環境が良い施設には診療報酬を加算しますよ、としたとしましょう。そうした場合、かつて7対1看護配置基準で起こった看護師争奪戦の様相が繰り返されるだけかなあ、と思っています。つまり、結果的にどの施設も「ウチの施設はこんなに良い労働環境ですよ!」とこぞって点数稼ぎに走る懸念があります。
一時的には良いかもしれませんが、組織の体質自体は変わっていないので、結局加算を維持しようと組織管理上良くないことが起こってくる可能性が高いのではないか、というのが僕のスタンスです。
*プラスアルファで付け加えるなら、労働環境の良し悪しを一律で測定することが困難であることも理由としてあげられます。
30年度改定で盛り込まれた「働き方改革」
以前記事にした「タスクシェアリング」については批判的立場をとっていますが、医療者の労働環境改善に向けて施設でPCDAサイクルを回す、ということについては肯定的に捉えています。
むしろ、現状考えうる最大の包括的制度だと思います。つまり、「労働環境については、改善を目指しておのおの施設で考えて取り組んでくださいね」という厚労省からのメッセージと認識しています。(ちなみに、なにかと矢面に立つ厚労省ですが、財務省というシブチンから医療を守るゲートキーパーだと僕は思っています)
僕の関心もここにあって、労働環境は制度として設計するのではなく、それぞれが作り上げていくものだと僕は思っています(誤解を避けるために付け加えますが、もちろん制度ありきのお話です)。
今となっては悪名高い「働き方改革」ですが、ネーミング自体は少し気に入っています。キーになる言葉なので強調しますが、「働かせ方改革」ではないのです。つまり、働く僕たちが自分たちの働き方を考え、そして自分たちの理想のワーク・ライフ・バランスを実現できるように、使用者(施設側)も労働者もそうした理想の労働環境について一緒に考えていくことが肝要です。
理想を語るな、現実を見ろ!
そんな言葉が聞こえてきそうです。そう思います。実際、医療のほとんどは医療者の生活の尊い犠牲のもとに成り立っていると僕は思います。
では、現実を冷静に分析してみましょう。例えば有給休暇でいえば、労基法第39条で「労働者への付与」が義務付けられています。これは、「休む権利を与える義務」であって、「休ませる義務」ではありません。39条4項で「労働者の請求する時季に」と記載されていますので、労働者が請求しなければなりません。では、現実で起きていることはどうでしょう?看護師が「休みを取りたい」といっても取れない、取らせてくれない。これは制度の問題でしょうか。僕には管理者のコンプライアンスの問題に思えます。
類似した事例が、現場では多発しているのではないでしょうか?現実に起きている「労働環境」の問題の多くは、管理者のコンプライアンスの問題や、マネジメント能力に関するものではないでしょうか。労働者が適切な形で権利を主張して、管理者が適切に対処する。これを実行するだけで、労働環境に関する問題の多くは緩和されるような気がします。(こうした黙殺された声を拾うためにも、労務管理を監督する必要性については以前の記事を参照してください「【コラム】混沌とした医療職の労働環境〜密室での労務管理〜」)
つまり、制度の問題よりも、その制度を扱う組織やマネジメントの問題の方がはるかに大きく根深いと感じます。
それでも残る制度や施策の穴
無論、すべての問題を組織や管理者に投げているわけではありません。もちろん制度に関する問題もたくさんあります。
例えば、看護師の給与は女性の一般労働者と比べて高いですが、男性のホワイトカラーと比べると、「夜勤手当(夜勤勤務者として基本給に含まれる場合も含む)」ありきの給与設定で、決して高いとは言えないでしょう。病院以外での看護師の活躍が期待されますが、ひとたび病院から出て夜勤をしなくなれば、給与水準は著しく下がってしまいます。訪問看護や福祉の場で看護をしたいと思っていても、給与水準の問題で足踏みしている看護師も少なくないのではないでしょうか。ある程度の給与水準を保ったまま、自分が働きたい形で、求めたいキャリアの形を支えてあげる制度作りが必要です。
副業も有効活用すれば、さらに良いでしょう。週4日は病院で働き、あと1日は訪問看護で働いたり、さまざまな施設を渡り歩くスペシャリストのような看護師がいても良いかもしれません。要はそうした働き方を「選択できる」制度であることが重要です。
まとめ
長々と書いてきましたが、僕が主に伝えたいことは3つ。
・労働環境の問題は、制度の問題なのか、制度を扱う組織やマネジメントの問題なのかを冷静に分析すること
・制度に言及すれば、自分が働きたい形態や求めるキャリアを支える制度作りが必要
・労働環境の課題は、主張しあったり無い物ねだりをしたりするのではなく、みんなで考えて取り組むこと
いささか理想的と思われるかもしれません。でも、看護の研究者としては、看護の未来はまだまだ明るい!と信じて、そして現場で奮闘する看護師の皆さんに敬意の念を抱きながら研究活動をしていきたいと思っています。