今回は基礎看護教育課程の進学について、僕なりの考えを書いていきます。現在進学している方々やすでに卒業された方々の進路を否定するものではありません。それぞれメリット、デメリットがあると思いますし、複数ある意見の一つとして捉えていただけたらと思います。
大学か専門学校か:学ぶことと社会的背景から考察する
大学も専門学校も、看護師養成校であることは変わらず、基本的なカリキュラムは変わりません。基本的なカリキュラムが変わらない、ということはつまり、学ぶエッセンス自体は大きく変わらないということを意味しています。よく考えると当たり前ですよね。国家資格である看護職が学んだ場所によって知識や技術が著しく差があると大変な問題です。つまりカリキュラムというのは、上で書いたような知識や技術の[一定水準を担保する]ものなのです。
では何が違うのか?大きな違いはその教育方法、教育内容かなと思います。専門学校は厚生労働省が定めるカリキュラム(上で書いたもの)に沿って教育が行われ、一般的に〇〇看護専門学校のように教育が行われます。
一方大学では、厚生労働省が定めるカリキュラムに加え、文部科学省が定める学士号取得要件を満たす必要があります。単位の感覚として、大学教育のほうが卒業までに必要な単位数は若干多いかなと思います。
大学で学ぶメリット
大学でも基本的に厚生労働省が定めるカリキュラムに沿って基礎看護教育が行われますが、大学での教育方法や内容は多様です。
昨今、臨床では多職種連携の重要性がいわれていますが、総合大学や医療系大学では、学部の基礎教育の中から医学科や薬学科、理学療法学科や作業療法学科など他の医療専攻を学ぶ学生と一緒に事例検討したり実習したりする授業(=多職種連携教育、Interprofessional Education: IPE)が開講されていたりと、他の学科を併せ持つ大学ならではの授業が受けられます。
(Googleで「多職種連携 医療」と検索すると、すでに多くの大学のカリキュラムに多職種連携教育課程が含まれていることがわかります。)
また大学は研究機関でもあり、教育に携わる先生方はみんな看護を科学・学問として研究しています。大学で学ぶということは、そうした最新の看護の動向をキャッチできる、ということもメリットのひとつです。看護という抽象的な営みを学問として紐解き、さらに最新の技術や知識、理論も合わせて学べるのは大学の大きなメリットだと思います。
さらに大学ならではのメリットとして2点あります。
ひとつめは、教育環境が非常に整っていることです。医療や看護に特化した図書館を持っていたり、ICTを活用した教育を積極的に行なっている大学もあります。正直なところ、大学と専門学校では運営している予算が全然違うため、こうした+αの教育を大学では存分に受けられます(海外留学制度、交換留学、e-Learningでの学習など)。また、こうした教育手法や教育システム自体を研究対象としている教員が在籍していることもあり、最先端の教育手法や教育システムを受けることができる場合もあります。
ふたつめは、出会いと経験です。大学、特に総合大学であればなおさら、さまざまな人が集まります。先ほど紹介した他の医療専攻の人はもちろん、文系や理工系の人などと、サークルや文化祭など授業以外の場で触れ合うことができ、看護・医療だけでなく、たくさんの視点や考え方を得ることができます。これは、学生生活の中では些細なことですが、後々非常に重要になってくるなあと個人的な経験で思います。
僕も総合大学の体育会に入っていましたが、他学部の先輩や同期のゼミや就職活動の話を聞いて、経済や政治、文化などの話を吸収することができました。看護や医療の場だけの関係性だと、どうしても社会の流れや情報が入ってきにくくなります。こうした情報を自然に受け取ることができるのも、大学で学ぶ大きなメリットだと思います。
(専門学校であっても、社会人サークルやアルバイト、ボランティア活動等で同様の経験を得ることもできると思います。ただ、大学のほうが身近で、自然な形でこうしたメリットを享受できると思います。)
将来のキャリアへのつながり
将来のキャリアを考えたときにも、大学卒はより有利な点がいくつかあります。
昨今大学教育が盛んになり、臨床で働く看護師の中にも大学卒の看護師がかなり増えてきました。看護をさらに学びたい、追求したいと思ったとき、大学院がひとつの選択肢になります。その場合、学士を持っていたほうが何かと受験がスムーズです。もちろん現状の教育課程では、認定看護師課程は大学卒を条件にはしていません。しかし、最近認定看護師課程に特定行為研修も追加する動きがあります。このように、「認定看護師」に求められるニーズも変化しています。その中で、認定看護師も学士保有が条件になる可能性も十分あります。
また、2050年頃には看護師が過剰供給になる、という試算も出されています。そんなとき、大学卒の看護師のニーズがより高まるのではないか、と思います。もちろん、現在専門学校を卒業しキャリアを積まれている方はこの限りではないでしょう。要するに、能力の高い看護師が必要とされる時代が必ずきます。そのときに「大学卒」というのは一つの重要な指標になります。
大学へ進学するデメリット
そこまで大きなデメリットはないかなと個人的には考えていますが、大学へ進学するデメリットとしては経済的な部分でしょう。専門学校よりも1年修学年数が長いため、その分授業料がかかりますし、最安値の国公立大学でも年間の授業料もおそらく都立や県立の専門学校のほうが安いケースがほとんどだと思います。看護系は自治体や医療施設からの奨学金もたくさんあるため、このような情報も踏まえて検討してみると良いでしょう。
いかがでしたでしょうか。もちろん、進路には個人の状況や考え方などさまざまな要素が絡んできます。ここで書いたことは全てではないですし、この記事を参考に考えていただけたら嬉しいです。