今回はTwitterで予告したとおり、「看護における組織づくり」をテーマに、概念・理論的な部分を中心に考えてみたいと思います。
実際に組織づくりに苦慮されている方も、自分の組織にモヤモヤしている方も、ぜひ読んでもらえたらと思います。
グループとチームの違い
組織づくりを考える際、グループとチームという類似した概念をまず整理することが大切です。
文献によってさまざまな表現はあるものの、
- グループ:単に個々のメンバーに繋がりがある集合体
- チーム:1つの目標に対してそれぞれ目標を掲げ、その目標達成に向けて互いに協力、役割分担、連帯責任を果たすための補完を行う集合体
と定義されます。
もう少しわかりやすく言い換えると、グループは「単なる人々の集まり」であり、チームは「志向性を持ち向かうべき先に進むために互いに支え合う人々の集まり」といえます。
例として、バスツアーに応募して一緒に周遊する人たちの集まりはグループ(バスツアー・同じ目的地で周遊する、という共通の繋がりがある)ですが、リアル脱出ゲームで居合わせた人たちの集まりはチーム(ゲームクリア・クリアのために意見を出し合ったり役割分担したりする、という目標の共有や役割分担・協働性がある)です。
看護の組織(だけでなく社会人としての組織)は、どちらが大切かは説明しなくても良いでしょう。
逆に言えば、良好な組織づくりとは、「共通の目標」「連帯」「役割分担」というキーワードを意識することである程度達成されるといえます。
リーダーシップとフォロワーシップ、メンバーシップ
良好な組織に欠かせない要素として、「リーダーシップ」「フォロワーシップ」「メンバーシップ」があります。
リーダーシップについては、過去の記事に書いていますので詳しくはそちらをご覧ください(リンクはこちら:看護管理の基礎 〜リーダーシップとマネジメント〜)。
過去の記事でも少し触れていますが、リーダーシップとは、組織のリーダーが備えるべき能力のひとつですが、リーダーシップの定義には「組織のリーダーが」という記載はありません。また、昨今経営学系の組織論者の中では、リーダーシップは組織に属する全員が備えることが望ましい、とされています。
その理由として、冒頭で触れた「役割分担」に関わってくるためです。
例えば、皆さんも友達とバーベキューをしたことがあるでしょう?その時、発起人(幹事)が基本的にその組織のリーダーです。ですが、実際バーベキューをするとなると、すべて幹事が執り行うことは稀だと思います。
「途中にスーパーがあるから私が買い出ししていくわ」とおふくろ気質で買い出しを買って出てくれる人がいるでしょうし、
「物品は僕が持ってるから持っていくよ」と物品を揃えてくれるサプライヤーも出現します。
「飲みたい酒を存分に飲みたいから僕がお酒は見繕う」と飲んべえが酒屋を買って出るでしょうし、
「バーベキューは炭と焼き方が命だ」と焼き肉奉行が焼き場を担当してくれたりします。
どうでしょう?これこそまさに理想的なチームだといえます。それぞれが自分の特徴や状況を鑑みて、それぞれの役割においてリーダーシップを発揮する良い例です。
実際の仕事上の組織においては、このようなメンバー個々人が発揮するリーダーシップのことを「フォロワーシップ」と呼んだりもします。
厳密にはフォロワーシップは、リーダーを支える機能・能力として定義されることも多いのですが、バーベキューの例のように、リーダー(幹事)からの一方的なコミュニケーションに頼るのではなく、メンバー(フォロワー)からもコミュニケーションを発揮することで良好な組織に近づけるでしょう。
さらに、実際にはリーダーとメンバー間のコミュニケーションだけでなく、メンバー同士のコミュニケーションも行われています。こうした組織におけるあらゆる方向性のコミュニケーション、能力や機能の発揮のことをまとめて「メンバーシップ」と呼びます。
Span of control
少し専門的な話題になります。経営学系の領域では、「Span of Control」という概念があります。
これは、組織において、ひとりのリーダーが掌握できる範囲・領域のことと定義されており、主にはメンバーの人数や仕事量などがこの範囲・領域の中に含まれます。
文献によって諸説ありますが、基本的にひとりのリーダーが掌握できるメンバー数として、6~12名が適切である、と主張されています。他の論文では、ファーストラインの場合、多くても30名、平均的には15名前後が適切である、と記載している論文もあります。
(※昨今の研究では、業種、リーダー・メンバーの能力、ラインのレベル等によって異なることが主張されていますが、人数に大きな違いは無いようです)
看護組織を鑑みると、明らかにキャパオーバーな組織が多く存在していることは否めません。
ミドルマネージャーとガバナンス
ここまでの話題をまとめると、
- 良好な組織はリーダーだけでなく、メンバーからも能動的な働きかけが肝要である
- 看護組織はひとりのリーダーが掌握しているメンバーの数が多いといえる
ということでした。
病院組織の場合、基本的に病棟単位で運営を行うため、ベッド数が決まり、それと同時に看護師数も決まるため、今すぐにひとりのリーダー(師長)が掌握する人数を実質減らすことは不可能でしょう。
そこでキーワードとなるのが「ミドルマネージャー」と「ガバナンス」です。
ミドルマネージャーやその他の人たちに積極的に権限委譲し、リーダーの業務負担を分担し、かつガバナンスを発揮することが、良好な組織づくりへの道筋です。
副師長や主任を中心に、師長の業務を分担することは、決して師長の負担軽減や満足度のためではなく、良好な組織へと変遷させるためでもあるのです。
キャパオーバーな師長に対し、業務サポートを導入したところ、師長のリーダーシップが有意に上昇した、という研究結果も報告されています。
まとめ
良好な組織づくりのために、
- 良好な組織(チーム)は、「共通の目標」「連帯」「役割分担」を備えている
- 師長(リーダー)の掌握範囲を鑑みて、役割分担・権限委譲を行いガバナンスによって組織を支えるチームを目指す
- 役割分担・権限委譲は師長の業務負担のためではなく、Span of Control、フォロワーシップ・メンバーシップの概念に基づく良好な組織づくりのためである
ということを意識して組織づくりを行うことが大切だといえます。
これまで紹介してきたこと、実際の現場での組織管理を鑑みると、そもそも組織論としてひとりのリーダー(看護師長)が病棟全体・メンバー全体を掌握することに無理があること、メンバーの能動的な関わりがチームづくりに重要であることがわかります。
ひとりがカリスマ的能力を発揮して、それを享受するだけでみんなハッピー、という組織は(ほぼ)存在しないのです。いるだけでハッピーという理想郷や革命的リーダーを追い求めるのはもうやめて、みんなで支え合いながらハッピーになるような組織を目指しましょう。
最後になりますが、僕は決して「師長は大変なの!理解して!みんなで痛み分けをしましょう!」と主張したいわけではありません。良好な組織づくりの起点になるのは、紛れもなくリーダー(師長)の能力や人徳だと思っています。ただ、これだけでは難しい・不可能なので、みんなで頑張りましょう、ということを主張したいのです。
補足として、今回はわりと抽象度の高い議論を展開しました。「じゃあ実際にどうやって組織(チーム)を作るの?」という疑問が湧いたかもしれません。その点については、時間ができたらまた記事にしたいと思います。
参考文献
- 看護メンバーシップ(2014).「看護実践の科学」編集部.看護の科学社
- Katarina Remenova, Zuzana Skorkova, Nadezda Jankelova. Span of control in teamwork and organization. Montenegrin Journal of Economics. 2018. 14(2), 155-165
- Brenda B. Simpson, Valorie Dearmon, Rebecca Graves. Mitigating the impact of nurse manager large spans of control. Nursing Administration Quarterly. 2017. 41(2), 178-186
- Nailya Bagautdinova, Asya Validova. Defining optimal span of control for an enterprise. Procedia Economics and Finance. 2014. 14, 30-34
などなど