看護師の職場と労務管理② ~妊娠や育児に関する法律~
今年も残すところあとわずかですね。今年はブログを本格的にはじめて、多くの方々に見ていただけて、とても充実した日々を送ることができました。本当にありがとうございました!
さて、今回は前回に引き続き、看護師の労務管理にまつわる法律について解説していきたいと思います。特に看護師は女性が多い職業ということで、今回は妊娠・出産・育児に関する部分に焦点を当てて見ていきたいと思います。今年最後の記事になると思いますが、ぜひ読んでいってください(^ω^ )
産前産後休暇・育児休暇に関わること
ここでは、妊娠や出産、育児に関する法律を見ていきましょう。
産前産後休暇については、労基法65条で使用者の義務が定められています。
・使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあつては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を申請した場合においては、その者を就業させてはならない
・使用者は、産後8週間を経過した女性が就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
育児休業については、育児介護休業法という労基法とは別の法律で規定されています。
・労働者は、その養育する一歳に満たない子について、その事業主に申し出ることにより、育児休業をすることができる。
・労働者は、その養育する一歳から一歳六ヶ月に達するまでの子について、次の各号(略)のいずれにも該当する場合に限り、その事業主に申し出ることにより、育児休業をすることができる。
ここでポイントとなるのが、産前産後休暇と育児休暇に関する条文の書き方に注目しましょう。産前産後休暇は、「使用者は、~させてはならない」と、使用者の義務として書かれています。一方育児休業は、「労働者は、~することができる」と、労働者の権利として書かれています。
法律上権利は主張しないと効力を持ちませんので、育児休業は申請することで初めて許可される休業ということになります。
他にも男女雇用機会均等法では、妊産婦の母子健康管理が使用者に義務付けられており、保健指導や検診を受けるための配慮を使用者がすべきこととなっています。労基法65条3項では、妊産婦が請求した場合、軽易な業務に転換させることも使用者の義務として明記されています。
つまり、妊娠した従業員の健康管理や就労管理、心身の保護は使用者の義務なのです。
個人的な考え方を付け加えさせてもらうと、本来妊娠とはおめでたい、祝福されるべき出来事です。妊娠して上司や同僚に嫌な顔をされるなんでもってのほかだと思います…!「健康」とは、母子の身体的健康だけではないと僕は思います。妊娠をしながらも働き続けることに対して、上司や同僚が非協力的であることは、精神的健康を害していると僕は感じます。つまり、職場でのこうした反応や態度、あるいは周囲のそうした非協力的な態度を容認する風土は、母子健康管理の義務違反だと解釈することもできると思います。
他に労基法でも、
第64条3項「会社は、重量物を取扱う業務、有害ガスを発散する場所における業務、その他妊産婦の妊娠・出産・哺育等に有害な一定の業務に就かせていけない」
といった法律や、
第66条1~3項「妊産婦が請求した場合は、次の労働時間等(①時間外・休日労働・深夜業 ②変形労働時間制の適用)について制限する必要がある」
という法律があり、使用者が負うべき義務や妊娠中の女性就労者の権利が法律で認められています。
産前産後休暇・育児休暇に関わる賃金のこと
産前産後休暇や育児休業を取得している労働者がいて、一時的に人員不足となる場合、その代替者を確保する必要があります。
その場合、休業中の人への手当てと、代替者への給料と二重でお金がかかる!と考えられる方もいるかもしれませんが、それは誤解です。
なぜなら、
産前産後休業期間中の給料の保障は、健康保険における出産手当金として支給され、育児休業期間中の保障は、雇用保険における育児休業給付として、それぞれだいたい給料の3分の2が支給されているからです。
ちょっとややこしいので図で見てみましょう。
この図のように、就労中は使用者の人件費から「給与」として支払われていますが、妊娠や育児休業中の保障はそれぞれの保険者、つまり使用者ではないところからお金が支払われているので、使用者はむしろ休業した人の給与費分が浮いていることになります。
代替者はおおよその場合、異動で補填されることが多いかと思いますので、休業者がいればいるほど、使用者の負担する人件費は浮いていくのです。多くの人が休業を申請すると、著しくマンパワーが不足するので、派遣会社等から期間限定で人を雇うケースもあるかもしれません。この場合も、繰り返しますが休業者分の人件費が浮いているので、派遣会社等に支払うお金を除くと新たに経費がかかることはありません。
つまり、妊娠や育児で休業する人がいるからといって、「お金がかかる」ということは基本的にはあり得ないのです。
強いて言えば、先ほど述べた代替者の手配や、休業明けの人たちに対する教育支援などにかかる経費はあるかもしれません。
いかがでしたでしょうか?簡単に解説しましたが、ワークライフバランスを考慮した職場環境においては重要なことばかりです。一方で、こうした支援を支える労働者(若手や未婚・子育てをしていないの方々)のワークライフバランスも同時に考えていくことが非常に重要です。
今年最後の投稿ですしたが、みなさん良いお年を(・∀・)