【コラム】混沌とした医療職の労働環境 〜密室での労務管理〜
全国的な大寒波とインフルエンザの襲来でみなさん体調など崩されていないでしょうか?
今回はタイトルにもあるように、医療職の労働環境がなぜ改善されにくいのか、その混沌としたシステムに着目して僕も研究テーマでもあるこのテーマについて記事を書いていこうと思います。
もしかすると、組織の上層に位置する方々がこの記事を読むと、気分を害されるかもしれません。ですが、あくまでコラムであり、研究的な知見の集約ではないのでご了承頂ければと思います。
医療施設に多くある人事システムの欠陥
そもそも、病院をはじめとする医療施設には、一般的に当然あるべき人事システムがありません。
一般企業では通常、雇用から初期研修、人事異動、離退職やライフイベントによる人材不足対応、処遇管理、人材開発などを担当する人事部という部署が存在します。
日常業務でのスタッフ管理は所属部署の上司が行いますが、人事部はそれらを管理・監督し、行き過ぎたスタッフ管理が認められれば是正を促し、スタッフの昇給や昇進といった処遇に関しても助言・決定を行います。
一般企業での組織経営では、そもそもライン(実際の業務を行う第一線の現場)を取り仕切る組織長(課長や部長)にこうした役割を担わせることは非効率であるという考えがあります。また、人材情報を集約し、組織全体としてどういった人材が不足しているのか、あるいはどの部署にどういった人材が求められているのかを総合的・客観的に把握するために、人事部という部署を置いて管理しています。
おわかりの通り、多くの看護組織にそういった機能はありません。また、医師界の持つ医局のような、独特で強力な人事システムもありません。
ライン長である看護師長が自分の部下を管理・評価し、その上司である看護部長が最終的に決定を下す、というシステムになっています。
図を見てもらうと一目瞭然ですが、看護組織では客観的な立場から人材管理を監視・監督・支援するシステムがなく、極めて閉鎖的であることがわかります。
人材・労働環境監督者の能力依存
上で説明したように、第三者的視点が全くないまま、自分たちの価値観や状況などでスタッフの労働環境が決められてしまうシステムですので、第一線で働くスタッフの労働環境の良し悪しは、まさに自分たちの上司の能力次第、ということになってしまいます。
繰り返しの説明になってしまいますが、本来であれば、人事部にあたる部署がライン(第一線)での人材管理を監視することができるのですが、人材管理と人事権が同じ部署に存在するため、上層部の意向の強い人材管理体制となってしまいがちです。
そもそも、師長といえどもともとは看護師であり医療の専門職です。人材管理や組織運営の専門家ではない人たちが、第三者的視点もないまま適切に人材を管理できるとは思えません。研修等で学んでいるとは思いますが、自部署の業務や運営も管理する立場でありながら人材管理も行うということは、相当卓越した管理能力が必要です。
つまり、現場の管理者の能力が不足しているというよりはむしろ、人事部的な部署がないシステムに問題があるといえます。結果的に、スタッフは自分の上司の人材管理能力に振り回されることになり、行き当たりばったりの労働環境が蔓延しているのです。
医療現場で軽視されるメンタルヘルス
人事部的な部署の存在に加え、医療施設には従業員のメンタルヘルスを監視する部署も存在しません。一般企業であれば、保健センターを設置して産業医や産業保健師による保健指導のもと、長期労働に対する是正勧告やメンタルヘルスケアを行います。
しかし、ほとんどの医療施設ではこういった産業衛生的観点から従業員の労働環境やメンタルヘルスを管理する部署が形骸化している現状があります。
病院の産業医って誰?と、誰が産業医であるかすら分かっていない人も少なくありません。
特に労働環境や労働条件に関しては、「みんながそうだから」という感覚で片付けられてしまっている現状があります。しかし、それは全体として問題なのであって、みんなが同じ思いをしていることと問題があることは別なのです。
最近では、従業員のメンタルヘルスに力を入れている企業では、産業医や産業保健師の他に、臨床心理士や、労働者のメンタルケアを専門に扱う産業カウンセラーやEAPカウンセラーといった人たちに活躍してもらっている企業もあります。
こうした専門家たちは、従来の個別面談による一対一の問題解決だけでなく、状況によっては部署や組織への働きかけも行ってくれる力強い存在です。
まとめと展望
なかなか制度自体を変えて労働環境を大きく変えることは難しいのが現状です。しかし、これまで説明してきたように、多くの医療施設には、従業員を守る本来あるべきシステムが欠如しているように思えてなりません。
看護組織の中に人事権を集約するのではなく、第三者的視点での人材管理(監視、監督)、メンタルヘルス的視点での労働環境管理(産業衛生、ラインケア)のシステムを強化することによって、少なくとも今以上に良好な労働環境が実現されるのではないでしょうか。
看護師の労働環境に関する文献を検索していて記事を拝見しました。とても興味深い内容でした。どうぞよろしくお願い申し上げます。
ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。
ご返信ありがとうございます。一般企業と医療施設の管理監督システムの違いが非常に興味深く勉強になりました。出典の文献がありましたら教えていただきたいと思うのですが、よろしいでしょうか。どうぞよろしくお願い申し上げます。
拙い文章ですがそう言っていただけて光栄です。
出典についてですが、基本的にコラムは私の考え等を述べているに過ぎないので、詳細な出典はないことが多いです。
この記事については、現場の方々やEAPカウンセラー、研究者仲間等にヒアリングした内容をもとに書いています。
引用とまでは言えませんが、アメリカの看護管理者向けのこちらの教科書も非常に参考にさせていただいております。
参考にされてみてはいかがでしょうか。
ご返信ありがとうございます。すごく納得のいく図で、なるほどと思いました。書籍のご紹介もありがとうございます。参考にさせていただきます。これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。
公立病院に勤める看護師です。コラム読ませていただきました。
弊院では、公立病院なので人事課は存在しますが、現場の知らない、3年には違う局へ移動してしまう事務方が各種手続きするのみです。
コラムに書いてある通り、ほとんど何もわからない病棟師長が、自分の知識だけで年休、病休、各種休暇を取り扱っているだけで、法律通り実施されていません。人事担当は副看護部長の1人だけ。
36協定の代表者選出のサインも「よくわからないけど、残業代もらえなくなるからサインして」と師長に言われました。
現状を変えようと、社会保険労務士の資格をとり活動しています。
しかし看護部からは「ただの迷惑で、あなたの活躍できることはない」とはっきり言われました。
県内1.2の規模の公立病院がこんなんですから、他の病院はもっとひどいでしょうね。
研究頑張ってください。僕も現場で頑張っていきますね。
病棟看護師です。
公立病院なので人事担当は現場がわかってない事務方が社会保険などの手続きなどするだけ。
あとは病棟師長の頭の中の労働基準法で業務が行われいるのが現実です。
時間外労働、年休などもう無法地帯。
長年続いてきた、悪しき人事システムの問題なのですね。