看護学博士が伝える「大学院で学ぶということ」
何度かこのブログでも記事を書いていますが、看護師のキャリアの代表的なものの1つとして、大学院進学があります。立場的に学生や周囲の方から、大学院進学の相談を受けることが少なくないのですが、いつも伝えることがあります。
それは、大学院は研究して学問の発展を目指すところであるということです。
研究、ひいては学問というのは、ザックリ言うと個別事象の一般化です。つまり一般化された理論体系は、個別事象よりも抽象的な概念を扱うということです。
もう少し簡単に、そして端的に言うと、大学院での学びは「個別事象をバッチリ解決する知識や技術を身に付ける場所ではない」ということです。
よくある質問の一つとして、「そうした理論や学問を学んでも現場で使えない」「机上の空論」というものです。
大学院で学んだ理論や学問を臨床現場で用いる場合は、目の前の個別事象と理論を照らし合わせて、理論が適用される範囲や条件にその事象がどの程度合っているのか、という思考作業が必要なのです。
もう少しだけ詳しく言いましょう。理論の一般化(≒エビデンス)は、個別事象を集めてその共通点を論じたものです。したがって、ときにはその理論に合わない場合もあり得るのです。
例えば鎮痛薬として有名なロキソプロフェンという薬があります。この鎮痛効果は非常に確固たるエビデンスがあり、良く用いられています。ですが、鎮痛効果が良く表れる人もいればそんなに効かない人もいます。良く効く人でも、頭の痛みには効いたけど、術後の痛みにはあまり効かない、という場合もあるかもしれません。看護学で学ぶ理論もこれと同じです。大部分、だいたいの人や状況では理論がその手助けになるかもしれませんが、そうではない人や状況も十分あり得るのです。
理論や学問とはそういうものである、ということ、そしてそれぞれの理論や学問がどういった背景で成り立ち、どのような人や状況で適応されうるのかを理解することで、個別事象との照らし合わせの中で使用できる武器になります。大学院で学ぶことの多くはこのようなものです(もっとも、あらゆる学問がそうですが)。
ここからは今回のテーマと少しずれますが、大学院で行うことのもうひとつ重要なことは「研究」です。先ほど理論と個別事象の適用範囲について話しました。では、どういった人や状況で、その適用範囲から外れるのでしょうか?それが研究という営みです。この適用範囲外の事象にまた共通性があり、一般化できれば、理論の拡大や新たな理論を生み出し、現場での適用範囲が広がります。学問とはそのようにして発展していくのです。
いずれにせよ、大学院ではたくさんの理論や手法を学びます。それらの多くは誰かから教えてもらうのではなく、自分から学ぶことがほとんどです。そして理論や現場とのつながりや理論同士のつながり、理論の歴史に触れ、より良く理解することで、現場で使える武器がさらに洗練されることになります。