看護管理の基礎 〜ワーク・エンゲイジメント〜

以前、ストレス反応の代表ともいる「バーンアウト」について記事を書きました。
今回はそのバーンアウトの対の概念であるといわれている「ワーク・エンゲイジメント」についてご紹介していきたいと思います。

それまでの研究の反省とワーク・エンゲイジメント

従来、労働者の健康と安全を守り、労働生活の質の向上に心理学の知見を適応することを目的とした産業保健心理学の領域では、心身の不健康やストレス、バーンアウトなどネガティブなアウトカムに着目して研究が行われてきました。アメリカ心理学会およびNIOSHが刊行している学術雑誌「Journal of Occupationall Health Psychology」では、掲載された論文の95%がネガティブな要因をアウトカムとして着目しているのに対し、ポジティブな要因をアウトカムとしている研究はわずか5%程度であったと明らかにしています。
こういった従業員のネガティブな面だけに着目するのではなく、ポジティブな面にも焦点を当てよう、という動きが2000年前後から出始めました。この動きの中で、ポジティブな心理状態の1つとして「ワーク・エンゲイジメント(Work Engagemnt)」という概念が提唱されました。




ワーク・エンゲイジメントとは何か

ワーク・エンゲイジメントは、冒頭でも触れたように、バーンアウトの対の概念として提唱されました。
バーンアウトは、疲弊し仕事への熱意が低下している状態であるのに対し、ワーク・エンゲイジメントは、活力に溢れ、仕事に積極的に関与しようという状態です。
一般的にワーク・エンゲイジメントは「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、活力、熱意、没頭によって特徴付けられる。エンゲイジメントは、特定の対象、出来事、個人、行動などに向けられた一時的な状態ではなく、仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知である」と定義されています。
また、ワーク・エンゲイジメントは、活力(Vigor)、熱意(Dedication)、没頭(Absorption)の3要素から構成された複合的な概念です。
活力とは「就業中の高い水準のエネルギーや心理的な回復力」、熱意とは「仕事への強い関与、仕事の有意味感や誇り」、没頭とは「仕事への集中と没頭」とそれぞれ定義されています。
高いワーク・エンゲイジメント状態にある従業員は、仕事に誇りややりがいを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得て活き活きとしている状態にあります。

ワーク・エンゲイジメントと周辺概念

ワーク・エンゲイジメントは、いくつかの心理的反応と関連する概念であるといわれています。先ほど出てきたバーンアウトは対の概念として位置づけられていますが、他に「ワーカホリズム」という概念も関連する概念として認識されています。

ワーク・エンゲイジメントは、活動水準が高く仕事への態度・認知が肯定的であるのに対し、バーンアウトは活動水準が低く仕事への態度・認知が否定的な状態です。また、「適度に一生懸命に強迫的に働く傾向」をさすワーカホリズムは、活動水準は高いものの仕事への態度が否定的であり、ワーク・エンゲイジメントとの違いとしていわれています。

ワーク・エンゲイジメントを形成するもの

ワーク・エンゲイジメントを規定する要因としては、仕事の資源(Job resources)個人資源(Personal resources)があることが研究で明らかになっています。
ワーク・エンゲイジメントに影響する仕事の資源には、上司からのフィードバック、ソーシャルサポート、上司による教育や指導、仕事のコントロール、革新的な組織風土、報酬、承認、組織と個人との価値観の一致などが影響します。また、仕事の資源は仕事におけるストレッサーが高いときにより効果的に働くことも研究で報告されています。
一方、ワーク・エンゲイジメントに影響する個人の資源として、積極的な対処能力、自己効力感、組織での自尊心、楽観性、レジリエンスなどが影響することが明らかにされています。




ワーク・エンゲイジメントによってもたらされるもの

ワーク・エンゲイジメントが高まると、いったいどのようなことがもたらされるのでしょうか?先行研究では、心身の健康、仕事や組織に対するポジティブな態度、仕事のパフォーマンスとの関連が検討されています。
つまり、ワーク・エンゲイジメントが高い従業員は、心理的苦痛や身体愁訴が少なく、職務満足感や組織コミットメントが高く、離転職の意思が低く、自己啓発学習への動機づけや創造性が高く、役割行動や役割以外の行動を積極的に行い、部下への適切なリーダーシップ行動が多いということがわかっています。また、ヒューマンサービス職では、顧客の満足度も高いことが示されています。
その他、ワーク・エンゲイジメントは個人だけで起きる現象ではなく、集団でも起きる現象であるといわれています。個人の高いワーク・エンゲイジメントが周囲の人に伝染し、良い影響を与え合う概念でもあることがわかっています。


看護職をはじめ医療職者は、常にさまざまなストレッサーにさらされながら仕事を行うことを強いられています。メンタルヘルスの観点から、ストレスを予防することが大切ですが、一方で各個人が持つエネルギッシュな心理面にも着目して、看護師がより活き活きと働けるような環境を整えることも、労務管理において大切な視点です。


*参考文献*

・島津明人.職業性ストレスとワーク・エンゲイジメント.ストレス科学研究.2010, 25

・Schaufeli, W.B., Bakker, A.B., UWES -Utrecht Work Engagement Scale: Test Mannual. Utrecht University, Department of Psychology, 2003 (http://www.schaufeli.com)

・Schaufeli, W.B., Salanova, M., Gonzalez-Roma, V., et al., The measurement of engagement and burnout: A two sample confirmative analytic approach. Journal of Happiness Studies 3, 71-92, 2002

・Bakker, A.B., Demerouti, E., The Job Demands-Resourse model: State of the art. Journal of Managerial Psychology 22, 309-328, 2007

など




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