【コラム】大学院生のメンタルについて

新年ももう2月ですね。もうすぐ国家試験もあるので、受験生の皆さんは体調管理に気をつけて頑張って欲しいです。

2020年一発目の記事は、大学院生(主に看護系)のメンタル不調について書いていきます。4月から新たに大学院生になる人や博士課程に進学する人、大学院進学を考えている人などに見てもらいたいと思っています。かくいう僕もかつてメンタル不調を訴えた大学院生のひとりでした。また、僕の周りでも同様に悩んでいる人は少なくありませんでした。今回は、そんな僕の経験談や周りの大学院生をみていて感じたこと、対策等を紹介したいと思います。中にはすでに対策が難しいこともありますが、少しでも参考になればと思います。

多くの大学院生がメンタル不調を抱えている

冒頭でも書きましたが、かつて僕もメンタル不調を抱え、眠れない、作業が手に付かない、頭が働かない、漠然とした不安に常に苛まれる、といった経験をしました。

こうした事態は決して特殊なことではなく、世界中の大学院生がメンタル不調を抱えていることが、一昨年Nature誌で紹介されていましたTime to talk about why so many postgrads have poor mental health. Nature. 29. march 2018)。

多くの学生がこうした事態にあるにも関わらず、この事実が当事者である大学院生の中でも周知されておらず、また現状それぞれの学生の自己対処に任せられているのが現状です。

また、こうしたメンタル不調は看護系大学院生でも例外ではなく、自分も含め多くの看護系大学院生がメンタル不調に悩まされていることも事実です。

看護系大学院生がメンタル不調を抱える原因

看護系大学院生がメンタル不調を抱える原因について、僕や周りの大学院生を考えてみたとき、いくつかの原因があるように思います。

それは、

・環境ギャップ

・指導教員との関係

・研究への不安、焦り

・経済的不安、キャリアへの不安

が主な原因かなと思います。もちろんどれかひとつだけではなく、複数の原因が絡み合ってメンタル不調を招いてしまいます。それぞれ簡単に見ていきましょう。

環境ギャップ

看護系大学院生の多くは、一度社会人になってからまた大学院に戻ってくる、というキャリアの人が多いでしょう。そしてその多くは、保健医療分野で働いていた過去があり、絶えず人と接する仕事です。患者、同僚、上司、地域住民など、想像以上に人と触れ合わなければ成り立たない仕事です。一方大学院では、基本的にデスクで一人きりです。もちろん研究室には他の大学院生がいますが、基本的には各自作業をしているので、とても静かです。授業がない日は特に、僕は「家を出てから帰るまで一言も言葉を発さなかった」なんて日はザラにありました。

また、僕は看護師として働いていたので、常に体を動かしていました。ですが、大学院生になると、ずっとデスクに座りきり。そして慣れない論文を読んだり、難しいコースワークの課題を処理したり、これまでしてきた活動とはまるで違う。

このような環境のギャップは、思い返してみると想像以上に僕にとってキツかったなあと感じました。

指導教員との関係

大学では領域ごとの教員と、多数の学生という関係でしたが、大学院では基本的に指導教員と一対一の関係です。大学院を終了するまで、ずっと一緒です。一対一の中で「教える」「教えられる」という関係性を”うまく”作っていくのは、とてもむずかしいことです。

僕もかつては指導教員から心無い(と僕が感じる)言葉を投げかけられることも多々あり、悶々とした日々を送っていました。

指導教員との関係がうまくいかず退学してしまった、という話も珍しい話ではありませんし、退学までいかずとも研究室に来なくなるケースはよくあります。

研究への不安、焦り

大学院に進学して直面する壁のひとつに、研究と現場のギャップを感じてしまうこと、があると思います。多くの人は現場で課題意識を持ち、その課題を解決するために大学院に進学しています。ですが、大学院でのコースワークやゼミでは、初学者には現場と乖離しているように見えてしまいがちです。そして、自分の抱いていた疑問や課題が実はすでに研究がされつくされていることがほとんどです。僕も入学当初抱いていた研究しようとしていた疑問や課題は、先行研究を調べてみるとかなりやり尽くされていました。こうしたことが重なると、「いったい自分は何をしに大学院に来たのだろう」と悶々としてしまいます。

また、ときには指導教員や先輩たちのアドバイスの意味や意図が理解できず、「自分はなんて出来ない人間なんだ」と感じてしまったり、そのアドバイスを消化できないことで研究が進まず焦ってしまったりしてしまいます。「同期はもうあんなに進んでいるのに…」と不安になってしまうこともあります。

経済的不安

給与面だけで見ると、看護師は比較的低くない職業です。数年のキャリアを経ていればなおさらですが、大学院に進学するということは、稼ぎを捨て、継続年数というキャリアを捨てるということです(継続年数というキャリアに対して個人的にはあまり意味を感じませんが)。

みるみる目減りする預金通帳の残高は、一人暮らしで支援者もいない僕にとってはとてつもなくストレスでした。「自分で選んだことだから」と、自分に言い聞かせましたし、実際そう言われることも多々ありました。ですが、だからといって吹っ切れるわけでもありませんでした。研究は進まない(ように感じる)、大学の同期は組織の中で昇進していく、お金だけは減っていく、時間がなくてバイトもできない…。蓄えておけばよかったじゃないか、と思う方も多いと思います。ですが、ある程度蓄えてから進学した知り合いの大学院生も同じような不安を抱えていましたし、大学院に進学したいと思うタイミングは人それぞれです。ある時期にふと「大学院に行って勉強したい!」と思う人も少なくありません。そうした人たちが、一般的な看護師だったとしてどの程度進学を見越した蓄えをしているでしょうか。生活費・学費以上に思ったよりお金がかかります。通学定期券も実費になりますし、住宅手当もなくなります。前年度の税金はえげつないです。教科書や専門書も驚くほど高額です。

ただ、僕は学部の頃から大学院に進学したいと思っていたにもかかわらず、それなりの蓄えをしていなかったのは大反省です。そんな自分も嫌になりました。。

キャリアへの不安

大学院に進学する人の中には、将来大学で教員になりたいと思っている人も多いと思います。大学院に進学すると、学部生の頃には全く見えていなかった教員の仕事を生々しいまでに見ることが出来ます。

たくさんの仕事を抱え、夜遅くまで仕事をし、やりたかった研究に費やす時間のほとんどは自分の時間を削っていて、基本的に裁量労働制なので残業代は出ない、なのに仕事の評価は研究活動で評価される…そんな先生方の姿を見ていると「教員は無理そう…」と感じてしまいます。

また、単に学びたい意識で進学してきた人も、現場に帰ろうと思って進学してきた人もキャリアに悩むことがあります。大学院は研究する場、研究ができるように教育する場、研究者を育成する場であって、明日の現場ですぐに使える知識を学ぶ場ではありません(養成課程が含まれている場合は除く)。学んでいる途中で何度も「こんなの現場で使えるの?意味あるの?」と感じることが多いと思います。こうした感情が押し寄せてくると、進学しても無意味だった、使えない時間を過ごしてしまった、これからどうしよう、と悶々としてしまいます。

 

メンタル不調を抱えやすい人

ここまで記事を書いていて、僕もなんか悶々としてきました。が、もう少しがんばります。

とはいえ、すべての学生がメンタル不調に陥るわけではありません(リスクは全員ありますが)。ここでもエビデンスを確認したわけではありませんが、僕や周囲の人たちの経験を元に、メンタル不調を抱えやすい人の特徴について解説します。

一人暮らしの学生

前項「原因について」でも記載しましたが、研究室では同じく研究する仲間がいるとはいえ、想像以上に孤独です。家に帰ってもひとり、研究室でも孤独、風呂に入るときもご飯を食べるときも夜眠りにつくその瞬間までもひとりです。

ひとりでいることがなぜ悪い影響を及ぼすかというと、「制限なく研究やキャリアのことを考えられてしまうから」です。誰かと一緒にいるとそれ以外の会話で気を紛らわせたり、考えない時間を”強制的に”作れたりします。家庭がある人であれば、家庭の役割もあるでしょうから、研究のことなんて考えてられない!ってときもあるでしょう。

また、夜遅く帰ったり朝遅く起きても誰にも何も言われない環境なので、生活リズムが乱れがちです。僕もそうでしたが、一人暮らしの学生は夜遅くまで研究室にいがちです。研究室にいると、研究している、研究が進んでいる気がするから。

もちろんやるべきことがはっきりしていて、時間的余裕がないときは遅くまで作業することは悪いことではありませんが、ダラダラなんとなく論文読んで遅くなったり、なんとなくデータいじったりして夜遅くまで作業していると、どんどん生活リズムは乱れていきます。心の乱れだけでなく体の乱れも起きてしまうと、メンタル不調まっしぐらです。

受け身な態度の人

何度か僕のブログ記事内でも書いていますが、基本的に大学院は何かを教えてもらう場所ではなく、能動的に研究する場所です。ゼミやコースワークでは、教員を含めみんなが研究者・臨床家として対等にディスカッションすることが求められます。

もちろん、進学したての院生はわからないことだらけですが、今議論しているテーマについて知識はないけれど自分の経験ではどうだろう、知識はあるが他の人はどんな経験をしているだろう、自分の興味のあることとどのようにつながるだろう、と常に積極的に参加する姿勢や態度が求められます。

受け身でゼミやコースワークに臨んでも、おそらく得られることは少ないでしょう。そうした場合、「学びが少ない」「教えてくれない」「ついていけない」など、不満や不安がつきまといます。そうした不満や不安が蓄積すると、「何をしに大学院に来たのだろうか」「自分の疑問を解決してくれる場所ではなかった」と、徐々に鬱々としていきます。

教員や先輩など、たくさんの知識を持っている人たちは、基本的に誰かから教えてもらったというより断片的な知識の種を自分たちで学習しつなぎ合わせて知識に昇華しています。

メンタル不調のシグナル

鬱々とした気分とは別に、メンタル状態が傾いてきたときどのようなシグナルが現れるでしょうか。以下にあげる状態に心当たりがある方は要注意かもしれません。

・夜眠れない、朝起きられない

・食事が美味しくない

・作業が手に付かない

・疲れが取れない

・頭が回らない

・常に頭のどこかで研究のことや不安なことを考えている

どれもメンタル不調で一般的なシグナルですが、大学院生は授業がなければその日ごとに時間に追われることはほとんどなく、こうしたシグナルすら気がつく機会も少ないのです。

時間がたくさんある(ように見える)ので、夜眠れなくても明日に支障をきたすことも少ないですし、作業が手につかなくても時間があるのであまり意識できません。常に研究のことを考えていても、「研究が進んでいないから仕方がない」「考えないと研究が進まない」と、メンタル不調であることに気づけません

ちなみに僕は、心のどこかで「自分のメンタル大丈夫かな?」と薄々思ってはいましたが、心の弱さだと思って見ないようにしていました。ですが、当時付き合っていた彼女(今の妻)に、上記のようなことを指摘してもらい「ヤバいんじゃない?」と心配してもらったことでようやく自覚しました。見せないようにしていても、近しい人から客観的に見てそう感じるのであれば自分は相当ヤバい状態なんだな、と気づくことが出来ました。

以上、今回は大学院生のメンタル不調について記事にしました。

次は「メンタル不調の打開策」「メンタル不調の防止策」について記事にする予定です。

大学院生活は常にメンタル不調と隣り合わせです。ときどき「メタ認知」を働かせて自分を客観視し、遅くなる前に対処できると良いですね。

大学院で学ぶことを選んだあなたは、その時点で強くて尊いと思います。より良い健康状態で学ぶことで、さらにあなたの実現したいことに近づきましょう。

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