COVID-19でなぜ医療経営は悪化するの?医療経営のキホン

MARS-cov-2の発見からダイヤモンド・プリンセス号の対応、緊急事態宣言、経済活動の再開など、未曾有の感染症騒動はやや落ち着きつつありますが、未だ沈静化の目処がたっていない状況です。

これまでCOVID-19関連の様々な報道がされてきましたが、中でもCOVID-19患者を受け入れた医療施設の経営悪化のニュースは、今後も通常診療・感染症両方において重要なテーマだと思います。

この記事では、なぜCOVID-19患者を受け入れると医療施設の経営は悪化するのか、医療経営に関する簡単な仕組みから解説してみたいと思います。

(参考:「新型コロナで病院経営は逼迫、コロナ患者受け入れ病院の医業利益率はマイナス13.6%に―公私病連」GenMed. 2020. 7.31. https://gemmed.ghc-j.com/?p=35252

急性期病院の収益の基本は「ベッドを埋めること」「手術すること」

そもそも病院の収益は、入院収益外来収益の2本柱です。入院患者数より外来患者数の方が多いことが一般的ですが、入院患者の方がケアが多く患者一人あたりの単価が多いため、収益の大部分は入院収益です。

入院収益は入院患者数入院単価で決まりますが、入院患者数はベッドを埋めることで、入院単価は高い治療(主に手術)を実施することで増やすことができます。

さらに入院患者数は、施設のベッド数(病床数)と病床利用率(ベッドの埋まり具合)、入院日数(ベッドの回転具合)で決まります。

多くの受け入れ施設では、手術を中止してCOVID-19患者の受け入れに備えました。手術をしなければ収益が下がることはわかると思いますが、手術患者がそもそも入院しないので先の図の「入院患者数」部分も減収になります。

また、受け入れ施設の多くは一部の病床・病棟を閉鎖してCOVID-19患者のための病床を確保しました。手術の抑制以上に致命的なことはこの病床の閉鎖・変更です。

一般的な患者とCOVID-19患者の経営的な違い

一般的な患者とCOVID-19患者の経営的な大きな違いは2点あると思います。

まず1点目は、病床占有日数が長いこと。現在の急性期病院の10〜14日ですが、COVID-19患者の場合、軽症であってもPCR陰性確認後退院で3週間程度(当初)、酸素投与患者であれば1ヶ月程度、重症例で人工呼吸器やECMO装着であればさらにそれより長期に病床を占有することになるので、病床の回転率が下がり、収益に大きな影響を与えます。

病床の回転率が下がるとなぜ収益が下がるのでしょうか?それはDPC(診療群分類包括評価)のためです。現在急性期病院は、患者の疾患ごとに支払われる医療費が定額で決まっています(手術等は別払い)。長く入院していても、国から病院に支払われる医療費は変わらないので、在院日数が短い方が病院としてはお得なのです。COVID-19患者は上記の通り在院日数が長くなるので、その分損してしまうのです。
また、在院日数が長期に渡るにも関わらず、施されるケアは基本的に酸素投与や点滴といった通常の肺炎治療と同様になるため、単価も安くなってしまい減収につながります(看護必要度も下がってしまいます)。さらに感染症対策のため大量の診療材料を投じるため、一般的な患者以上に支出も多くなります。

2点目は、病棟を閉鎖してCOVID-19患者を受け入れるため、その病棟には他の患者を入院させることはできず、空床が出ても病床を満たすことができないということです。前述の通り、病床を満たさなくては収益はあがりませんので、経営的には非常に痛手です(医療者的な視点で言えば、あまりCOVID-19患者で満たされすぎると感染対策やケアが行き届かなくなるので、その点では良いのかなとも思いますが)。

医療提供体制を崩さないようにするために

ではこの問題、どうすればよいのでしょうか。急性期病院の医療経営の基本は「ベッドを埋めること」と「手術(高度医療を提供)すること」です。

現状ではCOVID-19患者を特定の医療施設で一手に引き受けるか、患者単価を一時的に上げるかかもしれません。夏季賞与期を経ているので、経営的に大変な施設は本当に倒産しかねない財務状況になっていると思われます。一時金など一括の補助金では焼け石に水でしょう。

一方で、パンデミックから徐々にエビデンスが出始めていて、情報を整理しつつ通常診療に組み込んでいく将来も見据える必要があるかもしれません。

医療も慈善事業ではないので、このまま収益モデルが確立しないと、COVID-19診療から手を引く医療施設が増えかねません。医療施設の倒産かCOVID-19患者が行き場を失うか…。

忘れてはいけないことは、今もなお第一線で診療にあたる医療者がいるということ、衛生環境が良好な日本における感染予防の基本は個人の努力だということです。医療は道路や水道、電気といったインフラと違い、人(医療者)を介さなくてはならない大切なインフラなのです。

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