医療事故をどう見るか2 〜実際の判例から考える事故防止の視点〜

こんにちは(°∇° )

先月東京はずっと雨が降り、なんだかどんよりした空模様ばかりで気分も落ち込みそうでしたが、先月末あたりからは次第に晴れ間が見えてスッキリした秋晴れもみられてきました。

さて今回は医療事故シリーズの第2弾ということで、予告していた通り実際の判例を振り返り、事故防止の視点(主に法的観点から)を考えていこうと思います。

*詳細に事例を書くととても長くなってしまうのでポイントだけ記載します。

*判例については、裁判所公式ホームページの判例検索システムで検索し、資料をもとに作成しました。




判例①「カルテの記載

糖尿病と高血圧があり循環器内科にかかっていたとある患者。アムロジンの内服を開始したところ、下痢をするようになった、と主治医に訴えました。しかし主治医は「アムロジンで下痢をするなんてことは聞いたことがないな…」と、アムロジンが原因でない可能性を考え、婦人科・消化器内科の受診を薦めたそうです。

しかし、この主治医は受診を薦めたことについて、カルテには記載しませんでした

その後この患者は自己判断(アムロジンによるものと思っているため)で受診をしませんでした。

以降も再三主治医は受診を薦めますが、カルテには記載せず、また患者も受診しないことが続きました。

しばらくして患者がようやく消化器外科を受診し、末期の大腸ガンが発見され、間も無くして死亡しました。

患者側の主張

・頻繁に「病院」に通院していたのに何故がんに気づかなかったのか

・事前の説明において、再三受診を薦めたというが、カルテの記載がない

他科受診の件のやりとりを見たと証言している看護職員がいるが、数年前のことで、鮮明に記憶しているのは不自然である。


さて、気になる判決は、【原告の請求棄却】でした。

理由として…

つまり、カルテに記載がないからといってほぼ負ける(=裁判で信用されない)ということではないが、この事例のような偶然の出来事に左右されるため、カルテの記載が医療紛争において最重要であることは変わりはありません




判例②「予見可能性と結果回避可能性について」

本例の具体的裁判例リンクはこちら

とある産科病棟でのこと。出産後、母の疲労と後陣痛があり、母から「今日は赤ちゃんといたら疲れて参ってしまいそう」との訴えがあった。

そこで、病棟スタッフは、授乳時以外預かる(一時預かり)ことにした。

授乳のタイミングが2回あり、看護職員から「窒息しないように授乳の仕方を指導した。

3回目の授乳時、看護職員はこれまでの指導同様「窒息しないように」指導した。10分ほど様子をみて問題がなかったため、「ちょっと離れますね」と伝え離室した。(母、返答なし

しばらくして看護職員が訪室すると、側臥位だった母が腹臥位となり入眠していた。赤ちゃんは母の下敷きとなっており、心肺停止・チアノーゼの状態で発見された。

なんとも言えない悲しい出来事ですが、医療紛争へ発展しました。患者側の主張を見てみましょう。

患者側の主張

一時預かり中の出来事のため、母に責任はなく医療者の管理下であり当有害事象は看護職員の責任である。

・母の疲労状態や後陣痛の様子から、入眠の可能性があり十分予見できたはずである。

・「ちょっと離れますね」という発言に対し、母は明確な返答をしていないのにも関わらず退室するのは義務違反である。



判例はどうなったのでしょうか。結果は【原告側(患者側)の請求棄却】でした。

理由としては…

一時預かり中も赤ちゃんの安全に配慮する義務ある、と患者側の主張を一部認めた一方、患者側が訴える「予見可能性」については結果ありきで行動を振り返るものであり、具体的にその当時予見できたかどうかという視点ではないため棄却されたと考えられます。

判例③「身体拘束について

次の判例は、看護師にとって身近な問題である「身体拘束について」です。

本例の具体的裁判例リンクはこちら

ある夜勤帯。ある高齢患者がせん妄状態となり、入眠剤導入後に歩行(徘徊)したり頻回にナースコールでオムツ交換を要求するなどの行動がみられていました。

患者の腎機能を勘案し、それ以上の睡眠薬を投与することを避け、声かけやその都度トイレに連れて行くなどの対応をしていました。大声を出すなどの興奮状態が見られたので、夜勤看護師たちは個室に移動し様子を見ていましたが、興奮状態はおさまらず、最終的にミトンによる両手抑制を行いました。

その後、患者は自分の口でミトンを外そうとし、右手首皮下出血及び下唇擦過傷を負ってしまい、それによって裁判となりました。

患者側の主張

・患者はせん妄状態であったといえ、せいぜい立ち上がる程度で転倒や受傷の危険性は少なく、身体拘束を行なったことは妥当ではない

・それまでの看護師の対応(説明の仕方等)がかえって患者を興奮状態にさせうるような対応をしており、しばらく付き添って安心させ落ち着かせ入眠を促すことは不可能な状況とは言えず、身体拘束を行うこと以外の選択肢が十分に考えられる

・身体拘束には本来医師の指示と患者もしくは家族の同意が必要であるが、看護師の判断のみで身体拘束を行なったことは違法である


一審では医療者側の主張が認められ(身体拘束はやむを得ない)、二審では患者側の主張が認められていました(緊急性はなく身体拘束が必要であったとはいえない)が、最高裁患者側の主張を棄却しました。

身体拘束は、緊急の場合には止むを得ない、との判断を最高裁が下しました。しかしながら、このような紛争を回避するために、医師に相談したり、患者や家族と普段から十分に話し合うなどの対応は必要です。




いかがでしたでしょうか。少し長くなってしまいましたが、医療裁判ではどのような点が争点になるのか、実際の判例で見てみました。正しい知識や判例を読み解くことで、適切な医療紛争の回避方法や、不必要なリスクヘッジによる効率低下を回避することが可能となります。

次回ももう少し判例を読み解き、まとめたいと思います。

 

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