【コラム】「看護必要度」にみる看護の評価と問題点
来年平成30年には、2年に1度の診療報酬改定が行われます。その前に、診療報酬と看護について、自分の一意見を記事にしたいと思います。
「看護ケア」評価の現状
診療報酬における看護へのインセンティブがいくつかあるのはご存知かと思います。一番大きくて有名なのは「看護配置基準」ですね。一般病床には、7対1・10対1・13対1といった区分が設けられています。
この診療報酬上の意義としては、「患者数に対して手厚い看護師を配置している病棟には多くの診療報酬上のインセンティブを与える」というものです。
この算定を受けるには看護師の数以外の基準がいくつかあって、その中で有名なものがいわゆる「看護必要度」といわれる「重症度、医療・看護必要度」です。この指標による看護への評価については後述しますが、この指標によって「だいたいの看護師の必要性」を評価しています。
このほかにも、褥瘡ケア管理加算や認知症ケア加算、安全管理加算などによって、看護ケアの評価をしており、その評価結果によって診療報酬によるインセンティブが与えられています。
「看護ケア」評価のメイン・「看護必要度」
日常的な看護ケアに関しては、前述した「重症度、医療・看護必要度」で評価されています。
詳しい解説は厚生労働省や他のサイト、書籍等で見ていただくと良いと思いますが、この「重症度、医療・看護必要度」で何を評価しているのかというと、「患者の重症度と、それに伴って医療的処置や看護ケアがどれだけ必要なのか」を評価しています。
誤解を解くために、あるいは誤解を招かないように付け加えておきますが、この指標を略して「看護必要度」と呼ばれるがゆえに、まるで「看護の必要性を評価している」と勘違いしやすいのですが、あくまでこの指標では「患者の重症度と、それに伴って医療的処置や看護ケアがどれだけ必要なのか」を評価しているのです。
A項目では、「その患者のモニタリングの必要の程度」や「医療的処置の必要の程度」が評価されます。
いわゆる看護業務における「診療の補助」がどれだけ必要かを評価するものです。
このA項目が、後述するB項目、いわゆる看護師の専門性でもある部分よりも重視されているがあまり、「医学的なことの方が評価されていて看護的なことが軽視されている!」と感じる方も少なくないのではないでしょうか。
ですが、A項目では医学的なことがどれだけ行われているか、を評価しているのではなく、看護業務の「診療の補助」がどれだけ行われたかを評価しているのです。
さて、B項目では「療養管理をする上での看護ケアの必要の程度」が評価されます。
これは看護業務における「療養上の世話」がどれだけ必要かを評価するものです。このB項目だけで看護師の専門性を評価することに大きな疑問を感じざるを得ませんが、前回の改訂で「危険行動の有無」や「指示が通るかどうか」といった、比較的看護ケアを行う上で現場の看護師さんが困っていることが評価対象になったのかな、とも感じています。
最後にM項目ですが、こちらでは「術後管理の必要の程度」が評価されます。診療報酬における看護配置は、その病院が急性期病院かどうかを決める重要なファクターです。
「7対1看護配置が必要」=「急性期病院である」
→「高度な医療を提供する病院である」
→「必然的に外科的治療を必要とする患者が多い」
→「一般的に重症な患者に行われる手術の術後管理は大変」
→「術後日数によってそれを評価しよう」
というロジックです。一見「(医師の能力や意向によって決まる)治療を評価している」ように見えますが、M項目では「高度な治療(=ここであげられている手術)に伴って看護師の管理がどれだけ必要か」を評価している項目だと僕は解釈しています。
「看護ケア」評価の課題
看護師の専門性は、診療の補助にもあろうかと思いますが、僕はやはり療養上の世話において発揮されるものと思っています。しかし、これまで見てきたように、現状では看護必要度のB項目でしか日常行われている看護師の専門性は評価されておらず、しかも診療報酬に影響するファクターとしては軽視されているように思われるのが現状です。
じつは、とある勢力に言わせると看護師も病院内で「生産性が低い割りにコストが高い」と言われています。はっきり言わせてもらうと心外です。。読んでくださってる看護師のみなさんもそう思いますよね!?
ですが、看護界が訴えてきた看護師の専門性によって生み出されるものは、患者の満足度であったり退院後の生活の質であったり、情緒的なものや個別的なものにとどまっているのが現状だと思います。医学のように、この治療をしたら5年生存率が○%上がるとか、このプロトコールに沿って治療すれば完治率が○%になるとか、そういった明確な数字で評価することが未だできていません。
「看護の専門性は数字で測れない!」と感じる方も少なくないと思いますが、「数字で測れないもの」には「お金は払えない」のです。だって、基準もないですし、みなさんも「この商品を使うとお肌に良いかもしれないってみんな言ってます!実際に効果があるかどうかはわかりません!」って商品よりも、「この商品を使うとお肌に良いかもしれないってみんな言っているし、実際に肌年齢が○年上がります!」って商品の方がお金を払って買おうと思いませんか?
実際に診療報酬を決めている、あるいはその周囲にいるおじさんたちには、看護師さんが医療において重要な役割を持っていることは重々承知しているけれど、看護師さんが専門性を発揮することで、患者さんの何がどのくらい良くなるのかわかっていないので、そこに国民から集めた医療費を投入するのをためらっているのです。
「看護ケア」評価の今後
では、どうしたら看護師の専門性が評価されるのでしょうか。やはり、情緒的なものや不確実なものではなく、看護を知らない人たちが見てもわかるように、看護師がいることで患者さんが良くなるという根拠となる知見が必要です。
それにはやはり第一に研究者(や研究に携わる人たち)が、看護の専門性を測れる本当の指標を開発する必要があります。その上で、ようやく看護師の活動にもっとインセンティブをつけてほしい、という議論を始めることができます。
ですが、僕も看護師をしていて、「何かで測れない情緒的なものこそ看護の1番の重要な部分だ」とも感じています。とても難しい、複雑な課題ですが、看護界は今後ここと向き合って取り組んでいく必要があると思っています。日頃奮闘している現場の看護師さんたちの頑張りが、正当に評価され、お金を決めるおじさんたちや国民に伝わる日がきてほしいと願っています。