【コラム】AIは本当に看護を変えるのか?

こんにちは(^O^)
今日は「AIが看護の将来を本当に変えるのか?」というテーマで記事を書いてみようと思います。
「AI」。僕たちは今、まるで万能の道具を手に入れられるかのような期待・希望を抱いていますが、AIがもたらす未来は本当に看護や医療を大きく変えるものなのでしょうか?
少し前に「AIと看護の未来 〜おじさんナースマンの回顧録〜」と称し、将来の看護の現場についての記事を書きました。自分で書いておきながら、今回書く記事はその記事とは少し違う意見となるかもしれませんが、AIについてのちょっとした基礎知識を踏まえながら、今一度AIについてみなさんと考えてみたいと思います。




AIとは何か?

AIとは、「Artificial Intelligence」の頭文字をとってAIと呼ばれ、いわゆる「人工知能」です。あくまで「知能」であることを理解しておきましょう。その始まりは1950年代であるといわれ、当時は比較的単純化された問題(オセロの最善手、機械翻訳、パターン認識など)を扱っていました。技術の発展とともに、画像処理や音声理解、言語処理などが可能になり、現代ではみなさんがご存知のように、膨大なデータから高次推論と呼ばれる仮説推論や非単純推論、データマイニングなどが可能になりました
仮説推論??非単純化推論??データマイニング???と思われる方も多いと思いますが、要するに過去のデータからコンピューターが今ある問題(もしくは将来的な問題)や解決策を推測できるようになった、と思っていただけるとよいと思います。
僕たちが使っているiPhoneに搭載されているSiriやGoogleが開発したGoogle Homeは、音声理解や言語処理の領域にあたり、同じくGoogleが開発したAliphaGoや、将棋の名人位を倒した将棋ソフトPONANZAなどは高次推論の領域にあたります。

AI神話と誤解

医療現場へのAIの応用として、様々な将来像が飛び交っています。いわゆる「神話」と呼ばれるものも中にはあります。
昨今のAIブームの中で、「入居者と会話できるロボット」「自動的に体圧分散できるマットレス」「業務の一部を補助してくれるロボット」など、AIに対する期待はどんどん高まっています。
ですが、先ほど紹介したように、AIとはあくまで「人工知能」であり、「ロボット」ではありません。「AIを搭載したロボット」は開発が進んでいますが、AIという知能の発達と、オートメーション化につながるようなロボットの開発は別で考える必要があります。例えば先ほど例であげた「業務の一部を補助してくれるロボット」は、複雑な知能を必要としないので、AIではなくオートメーションの技術になります。
ですので、AIという人工知能が発達することで、様々なことができるようになるかというとそうではなく、それを搭載するロボットの発達も必要となるのです(多くの研究では同時に行われていることがほとんどですが)。

余談になりますが、人間の言葉を理解して会話をするロボットなどの開発はかなり進んでいます。少し前にタレントのマツコ・デラックスさんを模したロボット「マツコロイド」がテレビに出て話題になりましたが、実は人間は人型に近い方がロボットに親近感を感じやすいものの、限りなく人間に近い容姿をしているロボットに対し、「気持ち悪い」「不気味」といった否定的な感情を抱くというアンビバレントな一面を持っている、という研究もあります(「不気味の谷」と呼ばれています)。




医療現場におけるAI導入へのハードル

費用対効果

医療現場にAIが導入される日はすぐそこまで来ているでしょう。ですが、それはあくまで医学分野に限っての話。画像診断や術中アプローチなど、医学分野での応用は大幅に医師の業務効率や正確性を向上させるでしょう。
ですが、看護分野となると話は別。技術の進歩によっては、僕が過去に書いた記事のような看護の現場が実現するかもしれません。
しかしながら、看護現場に導入したとき、費用対効果の面で病院にとってメリットはあるのかは課題が残ります。看護師の業務効率が上がると、病院の経営にとってメリットなんでしょうか?超勤削減、人員の補完あたりが出てくるかもしれませんが、莫大な費用を投入して得られるメリットとしては弱い気がしますね。特に、現行の診療報酬では1日の看護配置数は決められているので、効率化がすすんでいったとしても、必要以上の看護人員を削減できないジレンマも生まれます(AIによる効率化で改定されるかもしれませんが)。
褥瘡や感染予防の面では、病院側のメリットが比較的大きいので議論の余地がありますが、そうすると今の認定看護師配置による加算がなくなるかもしれません。そうなると、彼らの存在意義自体が薄くなってしまいかねません。
かつて電子カルテの導入すら渋っていた病院経営者陣が、看護現場にAIを導入したときの費用とその分の財務的効果が不明確な中では、なかなか即時導入には至らない可能性が高いです。

AIのブラックボックス

AIは膨大な過去のデータから本質的な情報を学習する、いわゆる「ディープラーニング Deep Learning」の能力に長けています。それも人間では到底不可能な処理速度で最善手を推論するので、時として解読する人間側が「え⁉︎」と驚くような結果を導き出すこともあります。
僕は将棋を見るのが好きでよく対局をネット上で見ているのですが、指し手や場面優劣の解説に先ほど紹介したPONANZAが導入されたりしています(現時点でPONANZAは将棋ソフトの中では最強です)。そのPONANZAが指し示す最善手や優劣判定に、プロの棋士たちが「え⁉︎」「なんだこの指し手は??」と、ときどき狼狽している姿を見かけます。

このように、AIはデータ処理によって導き出された最善手を教えてくれますが、それを導き出すまでの過程やなぜ今それが最善手なのかといった解説までは僕たちに教えてはくれません。これがAIのブラックボックス」と呼ばれる理由です。
将棋やチェスのようなボードゲームでは、謎の最善手が導き出されて結果が良かった、悪かった、ということは試合が終わった後に振り返れば良いのですが、医療をはじめとする人命が関わるような現場への応用は慎重にしなければなりません(最近話題の車の運転も同様です)。
もし重大な事故が起こったとき、「いやあ、AIがこれが良いって判断したのでこれをやったんですけどね…」なんてことは理由になりませんし、最終的に誰が責任を取るのか、ということが問題になってきます。
また、過去のデータをもとに推論し結果を導くので、データが増える明日、明後日は導き出される結果が違うかもしれません。
こうした「ブラックボックス」に果たして医療は頼っていいのか、という疑問が残ります。


医療や看護におけるAIの技術は、これまで出てきたたくさんの機器と同様に、1つのツールであって、依存すべきものではなく、決して輝かしい未来をもたらしてくれるものではない、という立場でAIの進化を見守るべきなのかもしれません。現状、残念ながらAIは僕たちの働き方を大きく変えることはないのかな、と僕自身は感じています。ですが、AIや機械が得意とするところはなんなのかを理解し、AIや機械ができるところは代替してもらう住み分けは必要不可欠です。
また同時に、AIや他の技術が進化しても、僕たち看護師が大切にすべきものはなんなのかを常に考え、そしてそれを守っていかなくてはならないと思っています。




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