【コラム】なぜ組織で看護師を定着させる必要があるのか

今回は、「なぜ組織(病院や施設)で看護師を定着させる必要があるのか」という、一見ありきたりなテーマについて記事を書いてみようと思います。”看護師を”と書きましたが、これから書くことは、一般の企業でも同じような論理ができると思いますし、今一度ご自身の職場を振り返るきっかけになればと思います。





人材維持の両価性

従業員(人材)は維持してしかるべきー。それは当然の理屈なのでしょうか。実はあながちそうともいえない、普通に考えたら不可思議なロジックが存在するのです。

基本的に日本の給与体系は年功序列で、病院、とくに看護師の世界も同様なので、【従業員が定着する(従業員が辞めない)】ということは、必然的に【全体の人件費が増える】のです。

人材が維持した場合の全体の人件費よりも、人材確保にかかる費用が大きいような病院、たとえば日本では小規模〜中規模病院や介護施設などは、紹介会社や派遣会社に莫大なお金を支払って人材をリクルートしているので、人材確保にかかる費用に頭を悩ませています。ですので、当然ながら人材維持のためにあれやこれやと策を練るのですが、リクルート時点で相当な費用や資源を投入しているので、維持にまで資源や取り組みが回っていかず、しばらくして人材流出→また人材確保…というような状況に陥っています。

一方、リクルートにあまり労力を必要としない、勝手に人が集まる病院(有名な大学病院や知名度の高い大規模病院)では、むしろリクルートにそこまで費用がかからないので、一定の年数を経た中堅あたりの従業員が一定数辞めても、人材維持した場合の全体の人件費よりも、人材確保のための資金が少ないので、従業員がそれなりの人数辞めても経営的にダメージが少ない→むしろそっちの方が良いと考える人もいのです。お金の管理をしている人たちはシビアで薄情です…。

ですので、現場では人材流出は悪!と当然のごとく思うようなことでも、実は全員組織にとどまることを良しとしない勢力も存在するのです。

人材流出における現場の嘆き

実際、従業員が辞めてしまうと現場にはものすごい負担があります。みなさんも体験しているのではないでしょうか?

ごっそり人が辞めると、ごっそり人が入ります。看護師の業界では、既卒者(経験者)よりもはるかに新卒者の供給の方が多いので、必然的に新卒者で人員を補充します。当然ながらそうすると、現場のOJTによる教育対象者が増え、中堅者以上の負担が増加します。

加えて、診療報酬の算定は現状患者に対する看護師の”数”で算定されるので、一人前の仕事がまだ難しい新卒者が増加すると相対的に中堅者以上の業務負担も増加します。

また上記の問題に加えて、一度にたくさんの新卒者で不足を補填すると、同世代の看護師が増えることになるので、同時期に結婚、妊娠、出産といったライフイベントを迎える看護師が増えるので、そういった人たちの補完・支援が重なり、さらに負担が増加します。加えて、意図的にライフイベントを上司や同僚が操作しようとする意図結婚や妊娠といったイベントを快く思われない、同期が産休に入るのであなたは少し待ってくれるかしら、といったこと)も働き、満足度やコミットメントが著しく低下し、退職しようという意図が増加します

これらの問題から、人材維持に力を入れないと、「大量退職→大量補充」という負のスパイラルは続き、中堅者以上の負担が増え続け、ストレス過多になった人あるいはなりそうと感じた人は大量に離職する→大量に新卒者で補填と、悪循環に陥るのです。

ケアの面でも、中堅者以上の退職は、それまでの知識や技術が定着する前に教える側の人たちが辞めてしまうので、ケアの質が向上せずむしろ質の低下につながる可能性もあるのです。




人材維持への対策

では、どうしたら人材維持ができるのでしょうか。施設レベルで就業継続を支援する制度や取り組みを行っている施設もあり、成果が出ている施設もあります。しかし、学会での報告や現場の人たちへのヒアリングで受ける印象としては、施設規模が大きければ大きいほど、施設レベルでの制度や取り組みでは人材を維持するのが難しい、という気がします。

実際、今年の日本看護管理学会で発表された報告では、妊娠や育児を行なっている「ママさんナース」に対する支援、そしてそれを支える看護師への支援やインセンティブの付与といった包括的な取り組みを行なった病院でも、職員の満足度は上がったけど離職率には有意に影響しなかった、という報告もありました。

こういったことから、むしろ結婚や妊娠、育児といったライフイベントに着目した支援よりも、通常業務の仕事負担の軽減や休暇の取りやすさ、人間関係など、日常的にストレスを惹起する要因に対する取り組みの方がむしろ重要で効果的であるという印象を受けます(実際のエビデンスはないので、検証が必要です)。

そのためには、業務改善による負担軽減や公平な休暇の取得(「みんな休みを取れていないのよ」といういわば“負”公平が存在しているところをたまに見受けられるが、それは決して公平ではない)、良好な人間関係の構築といった、施設レベルではなく現場レベルでの細やかな取り組みが重要だと思っています。

人材維持にはダイバーシティが重要ですが、ダイバーシティの実現にはどれかが重要でどれかは重要ではないとか、どれかがあれば大丈夫、といった黄金則はなく、多面的に取り組む必要があります。

実態調査、研究活動を通じて、看護師が働きやすい職場環境の構築についてこれからも尽力していきたいと思います。


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